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所謂“横着養鶏”とは

  年明けと共に寒さは一段と厳しくなり羽換えから漸く立直りかけた古鶏や昨秋以来産み続けた若メスの産卵が思わしくなかったり一時産卵を休むのが今日この頃の養鶏管理の悩みであると思います。

  最近冬期における堆積敷藁養鶏法がだんだんと採用されて参りましたので,この方法について次に記してみたいと思います。

  所謂「横着養鶏」といわれる飼育法がありますがこの飼育法は堆積敷藁法ともいわれ,鶏舎の床を毎日掃除しないで丁度横着者の万年床のように古い敷藁の堆積された上で鶏を飼い続ける方法であります。

  これは従来,東北や北陸の寒い地方で冬中鶏舎の床の敷藁を交換しないで新らしい敷藁をだんだんと敷きつめて行き,寒さを自然のうちに防いだり,或いは戦時中より流行した堆肥育雛又はスパルタ育雛と呼ばれるものが,この方法の一つです。この方法が学問的な根拠により紹介されたのは最近でアメリカから紹介されたものです。従ってこの方法の具体的な試験や調査の資料が日本の試験研究機関にはありませんので農林省岡崎種畜牧場長がアメリカから持ち帰った文献を基礎にして次に記してみます。

一.由来

  堆積敷藁法がアメリカで普及したのは第二次世界大戦中で労力が非常に不足したため鶏舎の敷藁を取換え度くとも,取り替えるわけには行かず止むなく始めたのが動機です。ところが結果的に見て意外に雛の発育や成鶏の産卵成績に好結果をもたらしたため,大学や農業試験場等の研究機関が着目してこの方法に理論的根拠を与えたわけです。

二.実施の方法

  実施方法としては,敷藁材料として稲藁,麦稈,籾殻,落葉,鋸屑等何んでも差支えありません。これを鶏舎の床に3寸程度に敷き込んで,1−2週間おきに新らしい藁を1寸−2寸の厚さに加えて行き以前から敷き詰めた敷藁に混入された鶏糞は取り去らないように致します。

  このようにして敷藁の深さが5寸−1尺2寸程度になりますと,新らしい藁を加えることを中止して,この上で鶏を飼育するわけでアメリカではこの上で2−3年間も鶏を飼い続けると言われております。

  なお堆積した敷藁が湿って参りますと寄生虫や,その他の病原菌が繁殖蔓延しますので,敷藁を極力乾燥さすため消石灰を坪当り500匁前後大体20−30日置きに継続して撒布し,ホークで堆積された敷藁を撹拌混合して,できるだけ表面を平らかにしてやります。敷藁の堆積方法は大体以上のとおりですが特に注意を要することは,先ず堆積敷藁を開始する時期はアメリカでは一番湿めぽい時季が冬であるため秋の初めに堆積を始めると言われております。敷藁を積み始めた頃は特に鶏舎の換気を良くしてアンモニアの発生による障害を防止致します。従ってこの方法は鶏舎の天井が高く大群の鶏を飼育する広い鶏舎では好結果を得られますが天井が低く小さな鶏舎でしかも床がコンクリートでないと地下から湿気を呼びますから思わぬ弊害が伴います。なお敷藁上の鶏糞が軟くなって参りますと室内の湿気を呼びますので,極力乾燥するよう消石灰を撒布したり冬分新らしい藁を加える時はできるだけ細かく切断するなり,麦稈等は叩いて湿気の吸収力を高めるように致します。こうして出来上った堆積敷藁は或る程度古い程が育雛に利用しても成鶏に利用しても好結果を得られるように報告されております。

三.長所

  次にこの方法の利害損失の点でありますが先ず長所としては飼育管理の労力と敷藁材料が相当節約出来ますし,鶏舎の床がよく乾燥して有害な細菌が減少し,特にコクシチュームの発生が少く,そして堆積敷藁中に含まれるビタミンB2やB12を食べることによって鶏の発育が良好で尻つつきや毛喰い等の悪い癖が出ないようです。この長所を今少し掘り下げて検討して見ますと,雛が何故コクシヂュームに罹からないかと言うと,餌付けの時から雛を少量のコクシヂュームに晒しておくと生後30日から70日の間に出会う沢山のコクシヂュームの原虫に対して抵抗性が出来ると言われ又一面では生物には殆んどと言ってよう位その天敵があるもので堆積された敷藁の中にコクシヂューム原虫に対する天敵が生ずるとも言われております。或いは又コクシヂューム原虫はアンモニア瓦斯に対し非常に弱いので堆積敷藁によって発生するアンモニア瓦斯によって原虫が殺されるか又は弱められるとも言われ,しかも敷藁に撒布する消石灰によってコクシヂュームが予防されることにもなります。

  次に雛の発育の点でアメリカの農業試験場の実験例を挙げますと,堆積敷藁法と普通の飼育法を同一の完全飼料を使って比較試験した場合,堆積敷藁で育雛した方はふ化後85日目に体重が300匁に発育し普通の育雛方法では堆積敷藁に比し30匁も体重が軽く雛の死亡率も堆積敷藁の方が3%も少かったと報告しております。更に完全飼料を使って普通の育雛方法で育てた場合と,動物蛋白質やビタミンB12の給源を加えない不完全飼料を使って堆積敷藁の上で育雛した比較試験では堆積敷藁による育雛は不完全飼料を使用したにも拘らず前者とほぼ同等の育雛成績を収めたように報告しております。

  このように堆積敷藁を利用した育雛成績の成果は,雛の発育に必要なビタミンB2やB12を作る細菌が繁殖して敷藁の中にB2やB12が豊富となり,これを雛がたべるためでありましょう。

  次に堆積敷藁法で成長した鶏と普通の方法で飼育された鶏の産卵率を比較しますと,堆積敷藁法によって育てられた方が比較的粗飼料で飼育しても従来の方法で完全飼料を使って飼育した場合とほぼ同じ産卵成績を示し飼料費が或る程度節約されるようです。

  成鶏になってからの死亡率も雛の時代より堆積敷藁の上で育ったものが一番死亡率が低いと言われております。

  次に種卵のふ化率の点でありますが,堆積敷藁法による場合が従前の飼育管理法に比し,いつもふ化率がよいように言われております。

  しかし普通の飼育方法でも動物蛋白質やビタミンB12を沢山含んでおります魚粉や肉屑を飼料に配合しますと堆積敷藁法と同等のふ化率を示すものでありますが堆積敷藁法による場合は比較的粗飼料を与えても普通のふ化率を示すのが特長であります。

四.短所と注意事項

  以上堆積敷藁法の長所について申し述べましたが,この方法もやはり短所もあるわけです。特に内外寄生虫が普通の飼育法に比較して増加しますし,黒頭病の誘引となったり或いはアンモニア瓦斯による眼の障害や鶏舎内の空気の汚染により鶏の健康を害する向がありますので注意を要すると思います。

  以上堆積敷藁法について色々と申上げましたが,要するにアメリカで行われている方法は大羽数屋内飼育の場合に実施され,しかも不完全飼料を使用して行った比較試験も無機物やビタミンを配合した飼料でありますので,養鶏家の皆さんが実際にこの方法を応用する場合には幾ら粗飼料でよいからと言って極端に魚粉の配合率を少くしたり飼料の品質を落とすことは禁物です。大ざっぱに言って最近の魚粉の質ですと成鶏では15%以下の配合率にならないように注意したり鶏舎の換気に留意して余り小さな鶏舎では行わないのが無難です。

  又養鶏家の皆さんが知らず知らずのうちに被害を受けておられる寄生虫についても特にこの堆積敷藁では蛔虫や,盲腸虫の被害が多く更に「わくも」が余りにも多いのでありまして、これらの点が解決できさえすれば皆さんにこの方法をお奨めすることができましょう。

五.類似飼育法

  又最近農村で横着養鶏と銘打って配合飼料を細かく粉末にした所謂オールマッシュと言われる飼料を鶏舎に常備して不断に鶏に給与したり或いは1日の所要量を1回に給与して飼育管理の労力を省く方法が流行しているようです。

  これも労力の節約を特別真剣に考えておりますアメリカで大変普及している飼料の給与方法です。

  勿論この方法にも利害得失があります。

  長所としては労力を節約できることは第一でありますし,穀類も魚粉もその他の配合材料総べてが細かく粉末配合されていますので鶏に選り好みをさせずしかも弱い鶏も強い鶏も比較的平等に飼料を食べさすことができ飲水を切らさぬ限り飼料は微粉にしてありますから消化吸収は良い訳であります。

  しかし欠点としては鶏の食欲が不活発で給餌器の構造や夜間ネズミの動きに余程注意しないと飼料の消費に無駄が出来て参ります。

  殊に日本のように飼料資源に乏しく農村の自給養鶏が主体をなす処では,農場副産物や残業を有効適切に利用する意味から言って従業からの慣習であります練餌によって1日3回−4回程度に分割切餌とする方法が鶏の嗜好性や飼料の効率利用の面から適当であると思います。

  要するに飼料給与の方法は従来の練餌の分割給与を主体として要すれば補助的に粉餌を併用するのが最も合理的であると言えましょう。

  以上横着養鶏と叫ばれるものについて堆積敷藁法と粉餌の給与方法の二つに分けて検討して参りましたが,この方法はいづれも或程度の労力節約はできるにしても鶏舎の構造やその環境或いは養鶏経営の内容をよく吟味することは勿論のこと単なる横着心でこの方法を採用致しますと思わぬ失敗を招きますから注意を要すると思います。