>既刊の紹介>岡山県畜産史 |
昭和初期の世界的な農業恐慌の中でいよいよ深刻化する経済不況により,農村は恐慌状態に陥った。このような中で,農産物価格は下落し,金肥支出の増加が農家経済を圧迫する傾向が,いよいよ顕著になって来た。ここにおいて,農業経済は根本的に見直され,従来の主殻農業から,いわゆる有畜農業へ転換が図られるようになった。昭和6年「有畜農業奨励規則(省令第16号)」が公布され,厩肥の生産による地力の維持増進,金肥の節約,畜力利用の増強,老幼婦女子の労力の活用による労働配分の合理化,自給飼料の利用,農場副産物および厨芥残滓物の飼料への活用など,農業経営改善合理化のため,畜産を取り入れることが改めて提唱された。有畜農業経営共進会も,昭和6年(1931)を第1回とし,翌年,翌々年に引き続いて第2,3回が開催されているが,内容についてはつまびらかにできない。
また,政府は,昭和2年(1927)人口食糧問題等調査会を設置して,わが国食糧政策の基本問題について検討を加え,国民食糧の質的向上を図るという見地から,とくに酪農を重視した。なお,食肉,鶏卵についても同様な見地から,その生産増強の必要性が強調された。この時期,政府は,畜産団体の強化と畜産物の流通改善を図るため,乳肉卵の共同処理,畜産物の販売斡旋等団体の共同施設への助成を強化している。
昭和初年における畜産施設経費の推移は,表3−2−1のようであった。
岡山県では,毎年畜産の奨励事業施行方針をたて,各種奨励事業を行なった。つぎに,昭和6年(1931)度の畜産奨励事業について記せば次のとおりである。
1.共進会奨励 (780円)
物産共進会規程ニ依リ開設許可ヲ与ヘタル共進会又ハ品評会ニ於テ,一等賞ニ金牌ヲ,二等賞以下ニ賞状又ハ褒状ヲ授与スルコト前年通トス
2.畜産奨励 (8,200)
(1) 牧場奨励 (1,500)
町村又ハ二十人以上共同シテ1ケ所三十町歩以上ノ牧場ヲ設置(塁柵新設,荊蕀芟除,牧草栽植)スル場合,其ノ実情ヲ調査シ,所要経費ノ三割以内,一ケ所金五百円ヲ限度トシ奨励金ヲ交付スルコト前年通トス。
(2) 種畜改良奨励 (2,600)
畜産組合ニ於テ基礎牝牛馬奨励,優良犢駒ノ保留及種牡牛施設等種畜改良ノ奨励ヲナス場合,其ノ経費ニ対シ三割以内ノ奨励金ヲ交付スルコト前年通トス,但シ本県種畜払下規程ニ依リ払下ヲ受ケタル種牡牛ノ購入費及別途奨励金ヲ受クル種畜ヲ除ク。
(3) 優良種牡牛奨励 (2,000)
優良種牡牛ノ保留ヲ奨励スル為,種牡牛検査ノ結果優良ナリト認メタルモノニ対シ,一頭ニ付金百円以内ノ奨励金ヲ交付シ,優良種畜ノ散逸ヲ防止シ,之カ保留ニ努メムトス。
(4) 乳牛購入奨励 (1,000)
農家ノ副業トシテ搾乳ヲ目的ニ県外ヨリ優良ナル乳牛ヲ購入スル場合,購入価格の二割以内一頭ニ付金二百円ヲ限度トシ奨励金ヲ交付セムトス。
(5) 養鶏奨励 (500)
県一円ヲ区域トスル育雛競技会ノ開設ヲ助成スルノ外,鶏卵出荷統制ヲナス団体ヲ助成セムトス。
(6) 畜産共進会賞金 (600)
物産共進会規程ニ依リ開設認可ヲ与ヘタル畜産共進会ニ於テ3等賞以上ヲ得タルモノニ対シ一点ニ付金貳拾円以内ノ賞金ヲ交付スル予定ナリ。
3.畜産団体補助 (10,200)
(1) 畜産組合連合会ノ事業ニ付左記ノ通指定補助ヲナサムトス。
技術員設置費
共進会費
畜牛登録事業 (500)
家畜共済事業 (300)
(2) 畜産組合技術員費指定補助 (600)
県技術員ノ駐在ナキ阿哲郡畜産組合技術員一名ニ対スル俸給旅費ノ半額(俸給四百円,旅費二百円ヲ限度トシ)以内ヲ交付ス。
(3) 畜産組合補助 (7,000)
県費ヨリ別途補助金又ハ奨励金ヲ交付セサル畜産組合事業種目ノ内三種以内ヲ指定シ,査定額ノ三割以内ノ補助金ヲ交付セムトス。但シ指定事業ト認ムル種目中家畜糴売ノ奨励及畜牛肥育奨励,家畜保険事業奨励特ニ県ニ於テ必要ト認ムル事業ニ対シテハ相当高率ノ補助ヲ行フコトアルヘシ。
4.産業技術員奨励 (66,290)
(1) 郡区域団体及茶業組合技術員補助
郡農会,畜産組合及県煙草耕作連合組合,県茶業組合ノ技術員俸給ニ対シ一割5五分以内ヲ交付スル見込ナリ(別途補助金アルモノヲ除ク)。
(2) 町村及市町村農会技術員補助
産業技術員補助並資格検定規程ニ依リ前年ノ通補助セムトス。
(1) 畜産奨励規程による奨励施策
昭和13年(1938)以後の戦時中,県は従来の「畜産奨励規程」(大正11年,県令第68号)を廃止して,新しく設けた「畜産奨励規程」(昭和8年8月12日告示,同18年1月改正)による奨励事業を次のように行なった。
(1) 種畜購入奨励金は,優良な種牡牛または乳用種牝牛を購入するとき,県の行なう検査に合格したものに対し,査定価格の3分の1以内,300円を限度額として交付する。
種牡牛購入奨励金は,畜産組合の購入するものに限る。ただし,県の種畜払下規程により払下げを受けたものには交付しない。
(2) 牧野改良奨励金は,放牧地または採草地について,牧野組合,地方公共団体,畜産組合連合会,その他知事の適当と認める者の行なう事業に対し,これを交付する。ただし,国庫から直接補助金または奨励金の交付を受ける者に対しては交付しない。
(3) 畜産組合または同連合会事業費補助金は,これらの団体の行なう次の事業のうち,知事の指定した事業を施行するに要する費用に対し,その2分の1以内。
1.種畜の購入,保留,育成または種付施設
2.家畜の登録施設
3.家畜の保健衛生施設
4.家畜の飼料改良施設
5.家畜取引きの改善施設
6.家畜の肥育奨励施設
7.家畜保険事業奨励施設
8.その他知事の適当と認める事業
(4) 家畜家禽の共進会賞金は,物産共進会規程により認可した家畜または家禽共進会において,3等賞以上の賞を受けたものに対して,次の標準により交付する。
1.家畜 | 1等賞 | 賞金20円以内 |
2等賞 | 賞金10円以内 | |
3等賞 | 賞金5円以内 | |
2.家禽 | 1等賞 | 賞金6円以内 |
2等賞 | 賞金4円以内 | |
3等賞 | 賞金2円以内 |
(2) 戦時畜産奨励施策
第二次世界大戦突入後は,時局に対応して次のような諸規程を設けて,軍需に対応し,かつ,食糧資源増産の見地から畜産奨励が行なわれた。
(1) 軍用候補馬鍛錬施設補助規程(昭和13年2月)
市町村またはその連合で軍用候補馬の鍛錬馴致に必要な鍛錬会を行なう場合は,その費用に対し,軍用候補馬の改装を行なう場合はその費用の5分の4の奨励金を交付する。
(2) 種兎払下規程(昭和13年2月)
(3) 自給飼料補助金交付要綱(昭和13年6月)
(4) 緬羊飼育奨励規程(昭和15年8月)
(5) 有畜農業奨励規則(昭和17年4月)
(6) 養豚増殖奨励金交付要綱(昭和17年10月)
(7) 馬事振興補助規程(昭和17年10月)
(8) 乳用山羊増殖奨励金交付要綱(昭和18年3月)
(9) 優良種牝馬更新補助要綱(昭和19年8月)
(10) 自給養鶏奨励金交付要綱(昭和19年11月)