既刊の紹介岡山県畜産史

第1編 総論

第4章 昭和戦後期における畜産の発達

第2節 畜産振興対策

 戦後の岡山県の畜産の復興は,かなり順調に進み,昭和24年(1949)には家畜飼養頭数(家畜単位)は早くも戦前水準に回復した。この間,県は飼料の配給統制を行なう一方,自給飼料を確保するため,飼料作物種苗の生産配布,草生改良等を推進し,また,昭和21年(1946)から県畜産共進会を復活するなど,畜産振興を図り,翌22年(1947)9月から苫田郡加茂家畜人工授精所を初めとして,県営人工授精所を設置して,繁殖障害の除去と受胎率の増進のため家畜人工授精を実用化することにより,生産増強に努めた。
 昭和25年(1950)10月,第15回中国連合畜産共進会が,鳥取県倉吉町(現倉吉市)において開催された際,中国和牛協会等の主催により全国畜産大会が開かれた。この種の大会において取り上げられる問題は,それぞれの時代の畜産事情をよく反映するものであるので,戦後やや落ちつきを取りもどしつつあった同年の大会について,その概要を述べて,当時をしのぶこととする。

 第15回中国連合畜産共進会(昭和25年)における全国畜産大会の概要
  @ 全国畜産大会スローガン
   ア.無畜農家の解消
   イ.畜産課税の適正化
   ウ.畜産資金の確保
   エ.飼料供給の円滑化
   オ.畜産団体の活動力強化
  A 提出議題
    42議題が提出されていて,これを分類してみると,食糧自給増産2,種畜対策4,畜産金融4,畜産課税2,飼料関係4,取引改善4,卵価対策等4,家畜畜産物の運賃適正化5,家畜衛生4,養豚1,畜産行政の一元化4,競馬2および畜産団体2であった。
    議事のあと,宣言,決議,関係方面への陳情は,いつもの大会におけると同様に行なわれたことはいうまでもない。

1 岡山県農業振興計画(昭和24年)

 昭和23年(1948)5月,岡山県農業計画委員会が設けられた。この委員会のなかの畜産部会を構成した委員は,当時の京都大学農学部教授羽部義孝および農林省畜産試験場中国支場長石原盛衛の2人であった。この委員会は,同年12月まで討議を重ねて「岡山県農業振興計画第一次案」をとりまとめた。この計画は,昭和23年(1948)を基調として策定され,目標年度(昭和28年)において,家畜頭数等を,戦前(昭和9−11年平均)より幾分多い程度とする計画であって,酪農は県南部,和牛は県の中北部,馬は北部および南部の一部,豚,鶏は南部,めん羊,山羊は県下全域に,適地を選択して増殖を図ろうとするものであったで
 この計画のなかの畜産部門についての概要(農振計画一次案)は次のようであるが,これを見れば,当時の時代をよく反映していると見られるので,原文をそのまま掲載することにする。

岡山県農業振興計画(第一次案)
                   岡山県企画室(昭和24年3月)
 畜産

1 総説 畜産を振興し,農業経営の合理化と農家経済の安定を図り,栄養食糧の確保と畜産資源の開発に務め,食生活の改善,国民生活の安定並びに輸送力の増設に資すると共に,将来畜産の海外輸出を期する事は,日本経済の再建上極めて緊要な事である。
    本県は,戦前においては全国屈指の畜産県であり,特に和牛はその飼育頭数12万余頭に達し,全国に対する和牛の供給地であり,又養鶏については飼養羽数130余万羽,1ケ年の鶏卵県外移出数量30万箱に及んだのであるが,戦時中から戦後にかけ飼料その他の事情から飼育頭羽数は激減するに到った。
    しかし近来飼料事情が幾分好転した関係と自給飼料方面に相当活路を拓いた結果,逐年増加の趨勢になってきたが,将来における食糧の増産,民生の安定,進んで海外輸出の新興上から観ればなお相当の増殖を必要とするので,政府の畜産振興計画にも即応させて,昭和23年(1948)を基調として本県の畜産振興5ケ年計画を樹立した。
    計画の大体の目標としては,戦前より稍々多い程度に達せしめることとし,牛においては南部に酪農,中北部には和牛を,馬については北部と南部の一部に,豚,鶏については南部に,緬山羊は県下一円に適地を選択して増殖を図ることにした。
    牛乳の増産については飲用乳,原料乳地区を設定して生産し,乳製品の製造については,県下4ケ所の酪農工場を督励して優良品の製造に努め,将来外国製品の競争を予想して生産費の低減に努め,経営の合理化を図ることにしたい。
    なお畜産の増殖については飼料の充分な供給が必要であり,これについては自給飼料の増産特に草生の改良が最も必要であるから,この部面にたいしては一層の努力を払わなければならない。
2 畜産振興対策概要
1.乳用牛
 乳幼児の必要食糧の確保,並びに国民食生活の改善上,牛乳及び乳製品の増産利用を図ると共に,農業経営の合理化を期し,適地に集団的酪農経営の普及を促進するため,乳牛の飛躍的増殖を図ることとし,現在2,200余頭を昭和28年(1933)に5,000頭に増加する。
    酪農は主として県の南部に発展せしめることとし,生産率の向上,種牡牛の充実,人工授精の普及,共進会の開催,登録の普及等によりその目的を達する計画である。牛乳はその販売先の用途により飲用乳及び原料乳に区分されるので,飲用乳供給地区,原料乳供給地区を設定して,奨励を図り,乳製品については将来外国製品との競争を予想して経営の合理化を図り,なお牛乳の増産に対する施設を講ずる。
2.農用牛(和牛)  有畜営農の普及徹底を図り,経営の安定と農業生産力の向上を期すると共に,食肉及び皮革資源等の確保を目的として,県の中部及び北部地方に農用牛の普及増進を図ることとし,現在96,000余頭を昭和28年において13万頭にしようとするものである。
    その方策としては乳牛と同様生産率の向上,種牡牛の充実,繁殖障害の除去,人工授精の普及,共進会の開催,登録の普及等を推進すると共に,和牛本来の使命に鑑み,役用としての利用を一層増進し,なお県産牛の積極的な販売対策を講ずる。
3.馬  馬は大体において現状維持を目標とし,農業生産力の増強と輸送の確保を目的として,飼養管理に容易な農用馬に重点を置き,現在5,900頭を昭和28年に6,400余頭にする。
4.豚  食肉資源の増強に最も重要な家畜として種豚の確保培養に重点を置き,農家副産物,粕類厨芥等の飼料入手可能地域において普及増殖を図ることとし,現在550余頭を昭和28年において1万余頭に増加する。
    その対策としては指定種豚場の増加及び内容の充実,人工授精の普及,飼養管理技術の向上に重点を指向する計画である。
5.緬羊及び山羊  農村における羊毛の自家用と農山村及び都市近郊における産乳の自家利用を目的として緬羊及び山羊の増殖を図るため,緬羊は現在の500余頭を昭和28年において1,200余頭に,山羊は現在の7,000余頭を昭和28年において14,300余頭に増加しようとするものである。
 その対策としては,飼養管理技術の向上,種牡緬羊の充実,生産率の向上等に努力を傾注する。
6.家禽  国民の日常生活上最も普遍的に利用し得る蛋白質給源としての烏卵の増産及び食肉資源の培養を期し,併せて農業経営上の要素としての養鶏養鶩の普及増殖を図る目的で,養鶏については現在の366,000羽を昭和28年において962,000羽に,養鶩については現在の5,800羽を昭和28年において11,800羽に増加する。
    その対策としては指定種鶏場の充実刷新,孵卵の合理化による優良初生雛の生産,自給養鶏の普及,水田養鶩の普及に力を入れる。
7.家兎  輸出品としての毛皮並びに兎毛の増産を期すると共に,被服資源の自給,動物性蛋白質の供給源培養を目的として,主として婦女子及び児童等の労力活用により,毛皮用兎及び毛用兎の飼育普及を図る。毛皮用兎は現在の8万2,000頭を昭和28年において123,000頭に,毛用兎は現在の900頭を昭和28年に2万頭に増加する。
    このために指定種兎羽の内容充実を図ると共に,「アンゴラ」種の輸入により,産毛量の増加及び毛質の向上を期し,学校における養兎事業を普及し,児童にたいする養兎知識の涵養を図る。
8.飼料  現下の飼料事情に鑑み県内自給飼料特に粗飼料の増産並びに品質の向上に重点を置き,家畜増殖に即応してその供給確保を図り,昭和28年において粗飼料482,000トン,濃厚飼料111,000トン,敷草21万トンの生産供給を行う。
    このため飼料作物の増産,食糧加工副産物の飼料化,その他粕類の全面的飼料化を図ると共に,飼料及び飼料作物種子の輸入促進を図る。
    次に草生改良により,粗飼料の利用向上による濃厚飼料の節約を図ると共に,牧野の整備を行い,粗飼料の供給増加を図り,併せて飼料及び牧野に関する試験研究及び技術の普及並びに飼料配給の適正化を図る。(各家畜別増産策以下省略)

2 家畜等の生産目標と今後とろうとする方策など(昭和25年)

 昭和25年(1950)3月,岡山県農村振興推進本部は,畜産および飼料分野について,前述の岡山県農業振興計画(昭和23年)のなかの畜産振興5カ年計画に基づいて,家畜および畜産物等の生産目標,現況と今後の見通し,今後とろうとする方策,改良しようとする重要事項などについて,次のように述べている。これを見れば,戦後畜産の復興期における現況と当時の畜産振興についての意向がうかがえるので,原文のまま掲載することにする。

17.畜産について
 1.趣 旨
     今後の畜産の形態は農業経営と真に有機的に結合したものであらねばならぬ事は不変の原則であって,その為には適地適畜の分布,各農家の経営規模に応じた頭羽数の確保,高度の能力を発揮せしむべき方向への品種の改良,生産費低下に資する為の飼料自給度の向上等の,生産部面の積極化と相伴って,畜産の消費部面の拡大の方策が積極的に行われねばならない。
 2.生産目標(筆者注 次の(1)家畜および(2)厩肥参照)


 3.経済上より見た現況と今後の見通し
     生産並びに畜産物が戦後の一時における異常な高値より,最近急激に暴落して来たことは事実である。
     之は今後農業一般の保護政策の打切りと相俟って当分生産費との不均衡から,増産意欲が低迷することは否めない。
     然し一面,消費部門に対しては,安価にして潤沢な供給が必然的に需要増加となり,漸次之に応ずる合理的計画的生産様式への転換によって,経済的価格を維持するに至るであろう。
     斯くして国際価格にさやよせすれば,海外市場特に東亜諸地域への輸出も可能となってくることが予想される。
 4.今後とろうとする方策
     畜産は適地適畜を骨子として,飼料の自給を根幹とすると共に,優秀な家畜を生産し,その利用の増大と畜産物の増収を生み出して行く事が基本的な方策となる。
   (1) 自給飼料の増産
    (イ) 牧野の改良整備 (ロ) 草生改良 (ハ) 埋草の普及
   (2) 家畜の改良増殖
    (イ) 種畜の確保 優良種雄畜を保留し,人工授精等の応用に基く利用の増進
    (ロ) 登録事業の普及 (ハ) 優良種雌畜の導入保留 (ニ) 各種共進会の開催
   (3) 防疫の徹底 伝染病による消耗防止特に蕃殖障碍の徹底的防遏
   (4) 家畜の共済保険の普及
   (5) 加工利用の増進 特に自家利用並びに協同組織による合理的経営
   (6) 販売組織の樹立 生畜,畜産物共,資質,品質の改良によって声価を獲得し組織的な販売網を拡張する。
 5.改良しようとする重要事項
     行政部門としては各機関を通じて系統的な体制を確立し,更に重点指向する部門を大別して経営面,生産面と消費面とすれば次の通りである。
   (1) 経営面
    (イ) 飼料自給体制の確保と共に養蚕,果樹,特殊作物,蔬菜地帯及び農用林地との吻合を狙い,夫々適畜を活用せしめる。
    (ロ) 厩肥生産の増大と有効な利用促進
    (ハ) 家畜共済の徹底による損失保証
   (2) 生産面
    (イ) 和牛 畜力利用,乳利用の増大と共に,特に早熟早肥にして肉質肉量の改良に志向す。
    (ロ) 乳牛 健康且つ高能力のものを充実し,役利用の普及を促す。
    (ハ) 馬 農用適格馬への改良を目標とし,適地への普及を図る。
    (ニ) 緬羊 養蚕との組合わせを図り,羊毛の自家利用を促進する。
    (ホ) 山羊 優良山羊の生産と乳の自家利用促進。
    (ヘ) 家兎 アンゴラ兎毛の増産と在来兎の毛皮の増産。
    (ト) 鶏 駄鶏の淘汰,雄鶏の肉利用,産卵能力の向上を図る。
    (チ) 鶩 干拓地,湿地帯等に普及せしめ,肉及び卵の自家利用を図る。
    (リ) カナリヤ 輸出用として増産する。
    (ヌ) 蜜蜂 蜜源の増加を図る。
   (3) 消費面
    (イ) 畜産物の国内消費の開拓及び家畜の販路の拡張。
    (ロ) 出荷販売組織の強化確立。
    (ハ) 畜産物販売加工業者に対する適当なる金融措置。
    (ニ) 乳製品其の他畜産物の輸出促進。
   (4) 加工面
    (イ) 乳,肉,卵の簡単な自家貯蔵並びに加工利用を図る。
    (ロ) 屠殺副生物の徹底した自家利用。

3 酪農振興計画(昭和27年)

 昭和27年(1952)には,岡山県有畜農家創設要綱(5月7日,県告示),酪農振興計画が相ついで設けられ,乳牛の導入を初め,豚,めん羊,山羊,鶏の飼養が奨励された。その結果,これらのうちとくに用畜の増殖は著しく,岡山県の畜産は急速な進展をみせた。
 酪農は,昭和27年(1952)当時3,000頭台に過ぎなかった乳牛頭数を,昭和28年(1953)からの5か年計画により,1万頭とする酪農振興計画が樹立されたときから,本格的な発展期に入った。この計画により,優良種牛導入,技術の向上,草地改良,牛乳利用の普及などの諸施設に力が注がれた。同年樹立された岡山県酪農振興計画は,その基本方針を次のように述べている。

     岡山県酪農振興計画(昭和27年12月30日樹立)

     基本方針としては,酪農に依って名実共に明るい農村が現出し得る地帯を選定して酪農振興のため必要な諸般の施策を重点的に施行し,本県産業の振興に資するとともに,県民の福祉の増進に寄与する。(以下略)
 これとは別に,蒜山地区酪農振興計画が樹立され,画期的な酪農の発展が図られた。これにより,従来酪農について全くの処女地であったこの地区が,のちに「乳の流れる郷」になったことは,周知のとおりである。

4 岡山県農政審議会答申書(昭和48年)による畜産施策の大綱

 岡山県農政審議会は,昭和48年(1973)10月の答申書の中で畜産施策の大綱について,本県における「畜産の現状と問題点」(既述のとおり)ならびにこれに伴なう「今後の振興方向」について述べたあと,「対応すべき施策の大綱」について次の項目を挙げ詳しい解説をしている。

  ア.畜産モデル団地の育成
  イ.肉資源の生産増強
  ウ.家畜(禽)の改良増殖
  エ.公共育成牧場の整備と運営改善
  オ.畜産試験場の機能強化
  カ.指導体制の拡充強化
  キ.飼料生産基盤の整備と生産組織の育成
  ク.糞尿等排泄物処理のシステム化
  ケ.保健衛生機能の強化
  コ.価格安定制度の強化と流構機構の整備
  サ.畜産後継者の育成と指導農家の創設