既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第2章 和牛(肉用牛)の変遷

第3節 和牛の能力利用

4 きゅう肥の利用

和牛は,元来主穀農業の中で,役畜であって用畜ではなかった。1年のうち春秋2季の農繁期に数10日の役利用のほかは,きゅう肥の生産がおもな任務であった。夏飼い放牧地帯においても,夏きゅうと称して,盛夏期1カ月は,放牧を休止して,舎飼いにより,牛を休養させると同時に,きゅう肥を踏ませた。粗飼料としての青刈野草は,1日1頭当たり8−10貫(30−37.5キログラム)程度でよいところを,30貫位も生草をきゅう舎に投げこんで,大部分を踏ませてきゅう肥を生産した。
 昭和6年(1931)7月6日,有畜農業奨励規則(農林省令第16号)が公布されて,畜力利用や自給肥料の生産が盛んに奨励されるようになった。当時は,農家経済は自給経済であったので,自給肥料を増産して金肥への現金支払をおさえることが,きわめて重要なことであった。同年中の販売肥料と自給肥料との消費割合を見れば,農家1戸当たり販売肥料約30円に対して,自給のそれは約43円と見積もられ,耕地10アール当たりにして,それぞれ6円および6円67銭と見られていた(岡山県内務部(昭和9年)の『畜産要覧』による)。
 このように当時は販売肥料への依存度は自給肥料より低かった。ところが,昭和52年(1977)の米生産費調査の中の肥料費をみれば,岡山県の場合,60キログラム当たり1,373円のうち,自給が300円であって,全体の22%に過ぎず,最近の購入肥料への依存度の大きい問題点が指摘される。なお,この割合は同年の全国平均と全く同率である。
 昭和36年(1961),農業基本法(法律第127号)が公布施行されると,畜産経営は,規模拡大,専業化の方向をたどり,土地との結びつきが次第にうすれて,購入飼料への依存度の高い傾向が強くなった。肉牛の場合,豚鶏ほどではないにしても,購入飼料への依存度の高い多頭飼育形態が続出するに伴って,ややもすれば悪臭,水質汚濁等の公害発生源となりやすい糞尿の処理が,大きな問題となって来た。一方,耕種農家の方は化学肥料への依存度が大きくなり,耕地への有機質の施用が減少し,地力低下が大きな問題となって来た。岡山県農業試験場大森正による「家畜ふん尿の有効利用による土づくりの必要性」(昭和49年)によれば,岡山県農業試験場などの試験成績をふまえて,「自然流下式のふん尿を二毛作田で試験し,畑の状態(イタリアンライグラス,ソルゴー)では20−30トン,直播水田では10トン位を毎年施用しても,排水のよい基盤整備された水田での利用であれば,問題はない」ということである。ただし,このようにして栽培された飼料作物を生草給与する場合,グラステタニーの問題には十分注意しなければならない。以上のことから,畜産農家と耕種または園芸農家とを組織的に結びつけて,糞尿の有効利用をすすめるよう,図2−3−1のような図式を示している。