既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第2章 和牛(肉用牛)の変遷

第6節 和牛(肉用牛)の流通

2.家畜商

(2) 明治年代以降の家畜商取締制度の変遷

   1 牛馬商取締規則から家畜商取締規則まで

 明治3年(1870)3月,全国の牛馬売買業者に鑑札制度が設けられ,冥加税が設定された。
 明治5年(1872)「牛馬売買に関する取締規則」が発布され,「御鑑札冥加税」として全国一律に1円と定められた。同七年(1874)牛馬売買規則により鑑札を貸借することを禁じている。これらは牛馬商から財政収入を得ることが目的であった。
 明治以降家畜商に対する批判は,かなり手きびしいものがあったようで,詐欺瞞着行為を常用とする者という評価も根強かったようである。事実,大正年代になってからも,国有種牡牛の購買に当たり失格損徴などキズモノをつかまされないように十分注意しなければならなかったということで,県内のある郡で購買した種牡牛が,しばらく経つと白毛染めがはげ落ちて,大きな白斑が現われたということも言い伝えられているくらいである。もちろん,農家に対して良心的に接し,飼養管理の指導を懇切に行ない,資金等経営面の援助をする家畜商のあることはいうまでもない。
 国が制度として家畜商を指導監督するようになったのは,家畜市場法(法律第1号)の制定と同じ年の明治43年(1910)12月公布の牛馬商取締規則(農商務省令第27号)からである。この規則は,@牛馬の売買,交換,または周旋を業とする者に対し,地方長官がその者の願い出により免許を与える。A牛馬商は,帳簿を調製し,前記行為を行なった年月日,牛馬の別,種類,性,年齢,毛色,代価および商行為の相手の住所氏名を記入しなければならない。B素行不良にして公益を害するおそれのある者には免許を交付しない。などを規定したもので,家畜商を監督し,免許を与える際の判定は警察官がこれを行ない,営業については地方長官が指導監督した。
 家畜の取引頭数が増加するにつれて,農家や農業団体から,家畜商の不正行為がますます増大するので,取締りを強化するようにとの要望が強まるようになった。昭和14年(1939)3月,当時の中央畜産会(中畜)は,家畜取引きの改善と近代化について「畜産物取引改善協議会議事録」の中で,家畜商について次の事項を挙げている。

     〔第1 家畜商に関する論点〕
    中畜・・家畜商の取締りを強化し,家畜商の免許に当り,これを厳選するなど家畜商資質の改善をはかること。
   1 取締りを必要とする家畜商の範囲を牛馬羊豚に拡張し,「家畜商」と称すること。しかして現行省令を法律に改正すること。
   2 家畜商の免許に当っては相当の資金及び信用のあるものを資格程度とし,これが免許資格を引きあげること。
   3 家畜商はその取扱家畜の種類により,牛馬及び羊豚の2種に分つ。
   4 素行不良にして公害を害するおそれのある者及び一定時間営業の事実なき者,或は所在不明の者は免許の効力を失うものとすること。
   5 家畜商の免許に対しては,家畜の鑑識能力その他取引方法などに関する簡易な試験を施行すること。
   6 地方長官において家畜商の免許をなすとき,当該地方の畜産状況を参酌すること。
   7 各地方において家畜商組合を結成すること。

 これらの決議によって,昭和16年(1941)9月に家畜商取締規則(農林省令第69号)が公布され,明治43年(1910)12月から長い間続いた牛馬商取締規則(農商務省令第27号)は廃止された。この規則のおもな規定は,@家畜の範囲を牛馬から牛馬,緬山羊,豚に広める。A家畜商とその使用人,および家畜商の委託を受けて家畜商と同様の行為をしようとする者は,すべて地方長官から家畜商の免許を受けなければならない。B免許は,原則として地方長官の行なう各家畜ごとの試験に合格した者とし,合格した家畜ごとに免許を与え,免許を受けていない家畜については商行為を行なうことはできない。C免許の効力は免許を受けた都道府県内に限る。D家畜商は帳簿を調製し,従来の規則と同様の内容のほか,周旋の場合はその手数料を記入し,毎年地方長官に届け出なければならない。
 一方,家畜市場法により,@家畜商は家畜市場周辺の一定地域内では,市場開催日およびその前後の一定期日中,その市場で取引きする家畜の取引きをしてはならない。A常設家畜市場については,主務大臣の許可を受けて地方長官が指定した区域内では,その取扱家畜を対象とした市場を他に開くことができない。また,地方長官は,これをとりまく一定地域における牛馬宿での取引きを禁止または制限することができる。ということで,家畜商に対してきびしい規制が,なされていた。

   2 家畜商法制定以後

 家畜商取締規則は,戦後の新憲法下で,昭和22年(1947)末廃止となった。その後しばらく法的に空白期間を経たのち,昭和24年(1949)6月10日,「家畜商法(法律第20号)」が公布され,9月7日から施行された。この法律は,@一定の資格条件をもつ者は知事に届け出て登録を受け,免許を受けることができる。A免許の効力は全国に及び,また全家畜に適用する。などを規定したもので,家畜商の義務は軽減され,国や県の監督権は弱められた。しかし,これでは家畜商に対する取締りが不十分であるとの世論が強まり,数次の法律改正の後,昭和36年(1961)10月,免許資格についての規定が強化され,家畜取引きの相手農家を保護するため,家畜商に営業保証金を供託させるなど,公正取引きの確保のため,かなり大幅な改正が行なわれた。その改正の要点は,@家畜商は免許を受けるため,知事が原則として年1回開催する家畜商講習会を受講し,終了証書を受けなければならない。A家畜商は,営業を行なうため,営業保証金を供託しなければならない。の2点であった。保証金の額は一人20,000円とされた。