既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第2章 和牛(肉用牛)の変遷

第6節 和牛(肉用牛)の流通

2.家畜商

(6) 家畜商団体

 牛馬商組合は,大正10年(1921)小田郡に,その翌年都窪郡に設立され,勝田郡には同15年(1926)すでに設立されていた。その他の郡市においても,それぞれ組合が結成されていたと思われるが,記録に明らかでない。
 昭和元年(1926)に全国牛馬商組合連合会が結成されているので,当時県段階においてもこの種の団体が当然存在していたと思われる。しかし,記録にはっきりしたものは,山陽新聞社(昭和30年)の『山陽年鑑』に岡山県家畜商組合(組合長 大河寅蔵)が掲載されているのが見えるが,これより前のものは見当たらない。
 昭和22年(1947)12月10日に日本家畜商組合が,「家畜商の資質と社会的地位の向上」をねらいとして創立されている。この協会の構成員として前記組合があったことは間違いなかろう。昭和37年(1962)12月18日,中小企業協同組合法に基づく岡山県家畜商々業協同組合(理事長 水内潔)が設立され,事務所を高梁市中原町に置き,今日に至っている。この組合の構成員は次の4つである。すなわち,岡山県家畜商業協同組合(後出の備北および美作の区域を除く県下全域を区域とする),美作家畜商業協同組合(津山市および苫田,勝田,久米の3郡を区域とする),備北家畜商業協同組合(高梁市および上房,川上両郡を区域とする)および岡山県畜産商業協同組合(全県を区域とする)である。このうち,岡山県畜産商業協同組合は,昭和24年(1949)に設立されたもので,おもに組合員の資金面を担当するという機能をもつものである。昭和36年(1961),家畜商法および家畜取引法の一部改正により,中央に家畜取引基金協会が設立された。翌37年(1962)1月23日には,家畜商営業保証金規則が制定されている。これらは,家畜商による家畜取引きの改善合理化を促進するため,取引資金の債務保証を行なうものであるが,これらと前記の岡山県畜産商業協同組合とは有機的な連携はないということである。

   付 取引慣用語

 家畜(牛馬)の取引きに当って,家畜商などによって昔から使われていた特殊用語があった。これらのうちには,今なお使われているものもあれば,すでに死語になったものもある。ここには,その道について,とくに詳しい辰己盛太郎(元尾道家畜市場長)により,それらの一部を紹介する。

   商人に関するもの

 一匹馬喰………1頭位しか牽き得ぬ貧弱な牛馬商 牛馬喰…………牛専門の商人
 追 子…………牛馬の追いつけをなすもの    妾 師…………主として成牝を取り扱う商人
 牡子買い………主として牡犢を取り扱う商人   下段師…………屠畜を取り扱う商人
 こつといし……成牡牛を取り扱う商人      高 買…………つねに高価に売りつける商人
 唐辛子…………小男にて根性辛き商人      仲 間…………牛馬商人の使用人
 馬喰肌…………小事に拘泥せず,アッサリして放胆なこと
 判伴人…………牛の売買仲介人         牽 子…………追子。牛を牽く人
 太牛師…………肥育牛を扱う人         檻樓買…………格別不良の安い牛のみ扱う商人
 牝子買い………成牝牛を取り扱う商人      誉牛師…………優良牛を取り扱う商人 

売買に関するもの

上げる…………相場が上向くをいう。      頭が重い………相場不勢のこと。        
一升肉…………充分肥えていること。      芋 肥…………甘藷で肥育した牛。(肉質不良)
 絵図語…………実物を見ずして大体想像し得るように,その牛の様子を話すこと。または,「カタリ」ともいう。
 粕肥え…………豆腐類で肥育した牛。
 九合肉…………九分どうり肥えた牛 肥育度により,八合肉,七合肉,などといい,これ以上ないほど肥えたものを満肉という。
 けものはんげなし……牛の価格は売手,買手によって高下する。一定不変のものでない意。
 草肥え…………穀類を与えず肥やした牛     ここ渡し………売買した牛を,その場所で買手に渡すこと。
 腰を抱く………仲介者が買い手の承諾せぬ値段でも責任をもって買い手に買わせるか,買い手が買い取らぬときは仲介者がその値段で引き取ることで商談を進めること。又は「だく」ともいう。
 先渡し…………代金の授受を売買当日より後日にする。
 肉………………肉付のこと,ししが足らぬ,ししがないともいう。
 談 合…………「団子」ともいう。せり,入札のときあらかじめ意志を通じあって高く買わぬようにすること。または,1頭につき若干の金銭を談合商人に与えることを申し合わせること。
 綱が切れる……資金が欠乏して商売が継続できなくなること。
 綱を引く………売手が売りしぶること。     つぶす…………牛を屠殺すること。
 できた…………売買が成立すること。      手を打つ………売買成立の意。
 頭 掛…………2頭以上一括して売買すること「3頭掛」,「4頭掛」など。
 抛げる…………安い価格で売ること。
 荷………………所要数の牛数,購買予定牛数のこと。「荷ができた」のように用いる。
 肉浅い…………肉付不足。
 乳 立…………売買のとき妊娠不確実な場合,妊娠が確認できるまで支払代金の一部の決済を後日に残すこと。
 納 帳…………売買交換を市場事務所に申告し,記帳をうけること。
 ひねり…………耆殺用牛。           ばんぞう………牛の売買の仲介をすること。
 棒が折れる……「綱が切れる」に同じ。