既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第5章 その他の家畜家禽

第1節 馬

3 馬の改良増殖

(2) 産馬奨励施策

   1 馬産奨励計画

 年代を追って奨励施策を述べる前に,おもな奨励計画について述べれば次のとおりであった。
 岡山県内務部(大正12年)の『岡山県産業調査書(将来計画の部)』により,当時,馬に関係した施設計画事項を拾えば次のようなものであった。すなわち,@飼養頭数および生産頭数の増加については,年々1,000余頭の移入を見る現況であるが,生産増加を図るため牝馬の飼養と種付けの奨励をする必要がある。A種畜の充実については,基礎種馬の増加を図る必要上,優良牝馬の購入保留とともに派遣ならびに貸下げ国有種牡馬の増数を図り,もって種付けおよび生産を奨励しようとする,B個体資質の改善(能力の増進,血統,体型,能力の登録,個体改良試験),C家畜保健衛生施設の完備,D飼料および牧野の充実ならびに改善,E販売機関ならびに利用方法の改善普及,F畜産思想のかん養,G組合の設置ならびに振興,などであった。
 つぎに,岡山県農業振興計画(第一次案)が,昭和24年(1949)3月策定され,戦後の混乱から脱して,本格的に復興を期することになり,昭和28年(1953)を目標に改良増殖等の計画が樹立されている。この中で馬については,国の復興計画に呼応して,次のように計画されている。すなわち,「馬は大体において現状維持を目標とし,農業生産力の増強と輸送の確保を目的として,飼養管理に容易な農用馬に重点を置き,現在5,900頭を昭和28年に6,400頭にする。」ということで,その改良増殖対策は次のとおりであった。

         馬

   1.方針
     農業生産力の増強と,輸送の確保を目的として,飼育管理に容易な農用馬に重点を置き,立地条件に応じた産場の増殖を図ると共に利用の強化に努める。
   2.増殖目的
     5ヶ年後の頭数を6,450頭を目標とし,生産頭数を400頭とする。
     馬格は農馬,輓用馬にして,種類は中間種をもって改良する。
   3.改良増殖対策
    (イ) 種牡馬の充実を図り,生産の増進に努める。
    (ロ) 人工授種に関する知識の普及徹底,並びに技術の向上により生産の増強に資する。
    (ハ) 種馬の登録事業の整備強化を図り,改良の促進に資する。
    (ニ) 牧野の確保を期すると共に,その集約的利用に関し科学技術の応用並びに経営改善を行ない,育成の向上を期する。
    (ホ) 衛生施設を拡充し,疾病特に伝染性貧血並に伝染性流産の防遏に努めると共に,骨軟症の予防に,護蹄衛生に留意し,損耗を防止して能力の向上に資する。

 政府は,昭和初期における深刻な農村不況対策として,昭和7年(1932)から事局匡救土木事業を起こしている。この事業による昭和7,8両年度の幼駒運動場設置状況は表5−1−20のとおりであった。

   1 産馬奨励規程

 明治39年(1906)12月10日,閣令第9号をもって産馬奨励規程が発布され,次のものに褒賞もしくは奨励金が授与されることになった。すなわち,@検査の上優良と認めた馬匹の所有者または管理者,A一郡市以上を区域とした馬匹共進会またはこれに準ずべきものにおいて賞を受けた馬,B馬匹改良上功労のあった者,C優良種牡馬の種付けをした牝馬であって優等と認めたものの所有者または管理者,となっていた。褒賞または奨励金は,@共進会出品馬匹(1−3等賞)に対し3円以上100円以下の賞金,その他の馬匹に対し10円以上100円以下の賞金,A改良功労者には賞金または賞杯,B牝馬種付けに対しては2円以上5円以下の種付け奨励金となっていた。
 岡山県では大正2年(1913)3月8日,産場奨励規則(県令第5号)を発布している。
 明治40年(1907)から大正3年(1914)までの間,毎年2頭(大正3年は3頭)ずつ計17頭の優等馬匹が,この規程により馬政局から賞金(1頭当たり30円ないし70円)を受けたことが,岡山県内務部(大正4年)の『岡山県畜産要覧』に掲げられている。これを見れば,受賞した馬の種類は和種3,雑種12(うちハクニー雑種5,オルロフロストプチン雑種1を含む)および洋種2となっていた。また,産地は,県内産4,オーストラリア産1の他は県外産で,産地不詳が3頭あった。

   2 牝馬種付奨励

 明治34年(1901)川上郡では「種牝牛馬交尾料給与規程」により,郡費をもって交尾料を給与していた。県では,39年(1906)牝馬種付奨励金下附規程を制定し,優良な種牡馬を指定して,これを種付けした牝馬の所有者に奨励金を下付することとし,年330円の奨励金が下付されていた。おもに国有種牡馬の種付けを奨励したため,当業者は進んで「優等なる牝馬」を購入し,漸次種付けするものが多くなった。

   3 優良牝馬保留奨励

 畜産奨励規程(大正11年12月1日,県令第68号)等による優良牝馬保留奨励金の交付実績の明らかなものを示せば表5−1−23および表5−1−24にとおりである。
 阿哲郡産牛馬組合は,牛馬籍を作成(明治40年)し,優良産犢駒育成奨励規程を設け(明治42年),1頭当たり30円の奨励金を交付して,保留育成に努めるなど,産牛馬改良増殖に努めていたが,大正11年(1922)から保留期間を4ヵ年として,基礎牝馬1頭につき50円以内の奨励金を交付する制度を初めている。(昭和7年廃止)

   4 昭和10年代以降の産馬奨励

 昭和11年(1936)馬政第二次計画が発表されたが,翌12年(1937)勃発した日華事変における軍馬の期待に反する実績により,翌13年(1938)新馬政計画に改変されたことは既述した。当時,岡山県の産馬方針は,「小格堅実ノモノヲ認ムルモ体格資質ノ斉一ヲ欠キ四肢軟弱ノモノ尠ナカラザルヲ以テ,低尺ニシテ肢蹄堅牢ナル中間種牡ヲ供用シ,堅実ナル小格輓馬ノ生産ヲ期スベシ」(奥山吉備男の「覚書き」)ということであった。さかのぼって,第7回中国連合畜産共進会(大正4年,岡山市)における石橋審査長の審査報告の中で,岡山県出品の種馬は,「出陣8頭にして,対称おおむねよろしきを得たるも,後躯足らず,関節薄弱にして,栄養また十分ならざるものあり」と評されている。
 昭和13年(1938)2月,軍用候補馬鍛錬施設補助規程が設けられ,市町村またはその連合で軍用候補馬の鍛錬馴致に必要な鍛錬会を行なう場合は,その費用に対し,軍用鍛錬馬の改装を行なう場合は,その費用の5分の4の奨励金が交付されることになった,これにより,同年から18年(1943)まで,市町村ごとに全部の馬の検査をして,甲乙の2段階に区分し,集団鍛錬が行なわれた。このころは多くの馬が軍馬に徴発されたが,徴発されるまでに月2〜3回集団鍛錬が行なわれている。妊娠鑑定の結果,妊娠している牝馬は徴発をのがれた。翌14年(1939)4月7日,種馬統制法(法律第75号)が公布された。この法律は,「内地馬政は国防上必要とする有能馬の生産増強を骨子とし,種牡馬は原則として国有とし,種牝馬を整備し,同時にその配合を統制する」というもので,従来の種牡馬検査法および馬匹去勢法だけでは所期の目的が達成し難いとして,馬資源の生産増強を,国の統制により推進しようというものであった。
 同年同月同日,軍馬資源保護法(法律第76号)も公布された。この法律は,前述の種馬統制法とタイアップして,生産された馬資源に対し,あたかも人の徴兵検査に準ずるような検査を行ない,鍛錬を行なって出征後軍馬として十分期待にこたえられる馬にしようとするものであった。これに対応した県の施策として,馬事振興補助規程(昭和17年10月)があった。これは,畜産組合,同連合会などの行なう馬の改良増殖,育成調教,利用増進,牧野の改良,軍用保護馬の鍛錬の施策に対して補助金を交付するものであった。なお,昭和19年(1944)8月には,優良種牝馬更新補助要項が制定され,馬匹組合などの行なう優良種牝馬の更新に要する経費に対して補助金交付の方途が講じられている。なお,種馬統制法施行規則第1条による「馬改良方針及産馬方針」(昭和14年7月1日,農林省告示第217号)が公示されている。

   5 昭和戦後期における産馬奨励

 戦後,馬は「活兵器」から「農具」として農民の1家畜に大転換を余儀なくされ,馬産農家は目標を見失った。
 昭和20年(1945)9月,馬政局の廃止に初まり,翌21年(1946)5月種畜牧場官制の公布とともに,国の馬関係施設は改変縮少されて行った。また,昭和21年(1946)軍馬資源保護法の廃止を初め,翌年までに種馬統制法,馬匹去勢法などの関係法規は廃止された。さらに馬匹組合など馬関係団体も解散させられ,戦後の馬産は潰滅的打撃をこうむったのである。
 戦後においても産業馬として馬産復興が企図されたことは既述のとおりである。また,昭和28年(1953)岡山県告示第540号をもって「馬めん羊改良増殖施設補助要綱」が出されているが,事業の実績は不詳である。このようにして,戦後の馬産は,産業馬としての実績を挙げることができないで,衰退の一途をたどったことは衆知のとおりである。
 なお,戦後種馬統制法に代わるべきものとして登場した種畜法(昭和23年7月12日,法律第155号)により,種牡馬の種畜検査が実施されることになった。昭和25年(1950)5月27日,種畜法は廃止され,法律第209号をもって家畜改良増殖法が公布されたので,種畜検査は,この法律に基づいて行なわれることになった。また,この法律第3条の2によって,現在国は馬の改良増殖目標を昭和60年を目標年として樹立し,これを公表している。