既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第5章 その他の家畜家禽

第2節 緬羊

2 岡山県における緬羊飼養

(3) 昭和戦後期における緬羊飼養

 戦時中から戦後にかけての飼料不足と,終戦直後の社会的混乱に乗じて,乱殺などにより家畜の頭数は激減した。これにより家畜の取引価格の暴騰を招くことになったが,とくに衣類の著しい不足と,国産羊毛の需要の増加により緬羊飼育熱は高まった。昭和24年(1949)2月1日現在,緬羊飼養頭数は702頭であったが,その中の88%はコリデール種であって,メリノ種5%,その他6%であった。昭和23年(1948)に樹立された岡山県畜産振興5ヵ年計画によれば,次のような増産対策となっていたが,実績は,25年(1950)が984頭,28年(1953)には3,400頭というように,計画を大幅に上回っている。

     緬羊増産対策概要

       (岡山県企画室(昭和24年3月)岡山県農業振興計画による)
   1 方 針
     農村における羊毛の自家利用を主目的とし,農家の生活並びに農業経営に溶けこんだ形において,その普及増殖を期する。なお,養蚕地帯に対しては特に重点を置いて普及する。
   2 増殖目標
     昭和28年において1,226頭を増殖する計画で,右により4,000トンの汚毛の生産利用を期する。即ち
   3 改良増殖対策
    イ 飼養管理技術の向上を図るため,講習,講話,実地指導の徹底を期する。
    ロ 種牡緬羊の充実を図るため国有の貸付を受けるとともに,その確保を図る。
    ハ 生産率の向上を期するため,共同種付の施設を普及強化する。
    ニ 産毛の繊細化を防ぐため,種牡緬羊の積極的指導をなすとともに,種牝緬羊も同時に移入を図る。
    ホ 養蚕地帯に特に緬羊を導入して,蚕沙,蚕糞,残桑の利用を図らしめ,養蚕経営との連絡を図る。
    ヘ 疾病特に腰麻痺の防圧に努める。
    ト 生産羊毛の加工並びに利用の普及に努める。

 ついで昭和27年(1952)国は有畜農家創設要綱を定めたが,岡山県では県下の無畜農家戸数79,800戸中,経営規模と経営形態からみて,有畜化が可能であり,かつ,それを必要とするものを38,000戸とおさえ,10年以内に有畜化しようとした。昭和28年(1953)6月「馬及びめん羊改良増殖施設補助要綱」(県告示第540号)が出され,緬羊飼育奨励が盛んに行なわれた。
 この要綱により緬羊導入資金の融資の斡旋や利子補給などが行なわれ,緬羊による有畜化が急速に進められた。このころの緬羊飼養状況は表5−2−4のとおりであり,有畜農家創設事業による緬羊導入頭数は表5−2−5のとおりであった。これらによれば,県下の緬羊飼養頭数は,昭和33年(1958)の10,100頭を最高として,それ以後は羊毛輸入量の増加と,一方において年々数1,000頭に及ぶ屠殺頭数が昭和39年(1964)まで続いたこともあって減少の一途をたどり,昭和43年(1968)の飼養戸数160,飼養頭数200頭を最後に県統計から姿を消した。
 昭和27年(1952)以降においては緬羊関係の各種講習会が盛んに実施された。とくに剪毛実地講習会をはじめ,登録事業,緬羊審査,飼養管理などについて,指導員や農家を対象としてくり返し数多く開催された。また人工授精師の資格を取得することを希望する者を対象として,緬羊と山羊について人工授精講習会が開催され,繁殖成績の向上が図られたのもこのころであった。