既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第7章 家畜衛生

第1節 家畜保健衛生対策

2 動物薬事の変遷

(2)動物薬事制度確立とその後の変遷

   1 動物薬事制度の確立

 昭和23年(1956)7月「薬事法」(法律第197号)の施行に伴い,同年10月,「動物用医薬品等取締規則」(農林省令第92号)が制定され,動物薬事制度が確立された。これに伴い動物用医薬品に関する事務も,厚生省から農林省に移管された。そして,動物用医薬品についての許認可や指導監督について,製造業並びに輸入販売業については農林大臣が,販売業については都道府県知事が所管することとなった。岡山県においても,従来衛生部において取り扱っていた動物薬事事務を,昭和28年(1953)から農林部畜産課に移管している。
 昭和35年(1960)8月,法律第145号をもって,新しく「薬事法」が公布され,翌36年(1961)2月1日から施行され,これによって旧薬事法は廃止された。また,2月1日,「動物用医薬品等取締規則」(農林省令第3号)並びに「動物用生物学的製剤の取扱いに関する省令」(農林省令第4号)が公布され,現在に至っている。

   2 動物用医薬品製造業並びに販売業の動向

 動物用医薬品製造業者数は,昭和24年(1947)には全国で197社で,許可品目は462であった。輸入販売業者数は,昭和27年(1952)には18社,32品目であったが,その後年とともに増加している。(表7−1−12参照)医薬部外品,医療用具などについても,需要の増大に伴い,製造業者数,品目数ともに増加の傾向にある。

 岡山県における動物用医薬品の製造については,昭和23年(1946)の動物薬事制度確立以前には,先に述べた家畜伝染病研究所の実績のほかには見当たらない。その後,昭和24年(1949)に株式会社日本感光色素研究所(岡山市)が,NKルミン1号,NKルミン2号を製造している。その後,29年(1960)関西製薬株式会社(吉備郡総社町,現総社市)が,カンサイ牛馬薬を製造した程度であった。最近における製造業者数および許可品目数は表7−1−13のとおりである。

 一方,動物用医薬品販売業についても,製造業者と似たような推移をたどって来た。昭和32年(1957)の岡山県下の動物用医薬品販売業者数は,2類業者(現在の薬種商)1店舗と,3類業者(現在の特例販売業)115店舗であった。そのほか一部の薬局で動物用医薬品を販売したが,その詳細は不明である。昭和36年(1961)新薬事法の施行とともに,動物薬事行政も推進され,動物用医薬品に対する理解と認識も高まって来た。しかし,動物用医薬品販売業の中心は,地域における家畜の分布,医薬品の流通の実態等から,簡易に許可を受けられる特例販売業が,そのほとんどであって,中でも農業協同組合がその大部分を占めている。
  注 「特例販売業とは」当該地域における薬局および医薬品販売業の及普が十分でない場合,その他必要がある場合に,店舗ごとに,その店舗の所在地を管轄する知事が,品目を指定して医薬品販売の許可を与えた販売業者をいう。
 動物用医薬品の需要の拡大とともに,薬事監視の強化が必要となり,昭和33年(1958)には薬事監視員41名(畜産課6名,農林事務所9名,家畜保健衛生所26名)が任命され,動物用医薬品の製造業者および販売業者への立入検査を行ない,また,指導監視にあたった。動物薬事監視件数は,昭和29年(1954)には50件であったものが,33年(1958)には261件になっている。初め現地におけるこれらの事務は,農林事務所並びに家畜保健衛生所の両者で取り扱っていたが,家畜保健衛生所が整備統合されたのを機に,昭和43年(1968)から窓口業務は家畜保健衛生所に統一された。

   3 動物用医薬品の動向

 昭和23年(1948)の動物薬事制度確立以前は,人用薬は同時に動物薬として利用されていたことは既述のとおりであるが,昭和17年(1942)ごろから研究が行なわれていたペニシリンが,21年(1946)初めて万有製薬株式会社(東京都)により製造され市販された。その後,連合軍司令部の技術的援助によって,ペニシリン工業は急速に伸展し,23年(1948)までに製造許可を受けたものは48社に及んだ。しかし,生産高の激増は,同時に価格競争を招くこととなり,その後発生したペニシリンショックの問題などもあって,その生産は低下後退した。薬学,医学の進歩は,医薬品の品質をさらに改善し,ストレプトマイシン,オーレオマイシンなどの新しい抗生剤の発見となり,これらは漸次家畜の疾病に応用され,化膿性熱性疾患,細菌性疾患,ことに乳房炎や子宮内膜炎などの治療予防に単味または合剤として利用されるようになった。
 さらに,抗生物質は,かなり古くから飼料添加物としてきわめて大きな役割りを演じて来た。すなわちカルシウムや無機質製剤を基材として,酵素やビタミン等の薬剤を配合したものを,畜主自ら常用するのが通例であった。わが国ではサルファ剤,抗生物質,ビタミン剤などの薬品を,飼料中に混入するようになった歴史は明らかでないが,昭和26年(1951)に畜産局長から「動物用医薬品の範囲について」として,ペニシリン,ストレプトマイシン等の抗菌性物質副産物その他を原料として,その少量を飼料に添加することによって,家畜の発育を促進し,または疾病の予防に効ありとする,いわゆる「抗生物質飼料」,「ビタミン飼料」等に,薬事法を適用することについて通達されていることから見れば,このころすでに飼料添加物の使用が,一部で行なわれていたのであろう。
 動物用医薬品は,獣医師等の応用する治療用の医薬品と,家畜の発育や疾病予防等生産性の向上を主目的とする飼料添加剤とに大別されるが,とくに後者の需要の伸びは大きく,家畜の生産資材として欠くことのできないものとなった。最近の動物用医薬品の流通の動向を,薬効別の販売高によって見ると表7−1−14のとおりである。

 動物用医薬品の多用,特に抗生物質,抗菌製剤等の飼料添加は,長期にわたる常用により,耐性菌が増し,畜産食品への残留問題等を招来するようになった。こうして,「飼料の品質改善に関する法律」(昭和28年,法律第35号)を「飼料の安全性の確保及び品質改善に関する法律(飼料安全法)」(昭和50年,法律第68号)に改め,飼料の安全性についての規制が追加された。すなわち,従来の動物用医薬品の飼料添加について,製剤ごとに使用できる対象家畜,添加量,使用期間等を定めたほか,「飼料添加物」として動物用医薬品から分離し,独自の国家検定を実施することとなった。なお,動物用医薬品は,従来どおり予防治療を主目的とする飼料添加剤として販売されるが,流通飼料への添加は認められず,飼料と動物用医薬品とを明確に区分した。
 一方,動物薬事監視についても,これら抗生物質等の流通や使用の適正を期するため,要指示医薬品(抗生物質,予防液,ホルモン剤等農林大臣の指定する医薬品は,獣医師の指示を受けた者でなければ購入できない)を中心に指導,監視が強化されるようになった。また,家畜保健衛生所においては,従来の医薬品依存による畜産から,衛生環境を改善して,健康で生産性の高い畜産をめざし,家畜飼養衛生環境改善特別指導事業などに移行し,畜産農家の指導にあたっている。