既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第7章 家畜衛生

第3節 家畜人工授精の発達

5 和牛精液の伝書鳩輸送

 岡山県和牛試験場(新見市千屋)から家畜人工授精用精液を,伝書鳩により輸送を開始したのは,昭和29年(1954)11月(注 当時は千屋種畜場)である。はじめ,刑部家畜保健衛生所(阿哲郡大佐町)との間で後述のような輸送試験を行なった。これら両地間には標高約1,000メートルの大佐山があって輸送距離は13キロメートルであった。

 千屋,刑部間の伝書鳩訓練と輸送精液の保存調査(昭和29年)
 (岡山県和牛試験場(1960))「試験調査成績概要−追補」より)

 人工授精用精液を広範囲にかつ,早く需要地に配布するため,精液を伝書鳩輸送した場合,精液性状に及ぼす感作を調査した。
当場と刑部家畜保健衛生所(13キロメートル)との間を,若鳩10羽を用いて往復訓練した。
 本訓練は当場においては最初の試みであり,しかも,両地の間には1,000メートル以上の高山があるため,猛禽類の被害が予想されたが,1群10羽程度としたところ,被害を受けることなく,直線距離13キロメートルのところを片道11,2分で飛行した。また1羽の鳩で4tまでの精液の輸送が可能であった。
 鳩による精液輸送は,昭和29年(1954)から37年(1962)まで実施された。
 鳩輸送の後退の理由は,鳩が山越えの際,猛禽類の被害などにより漸次伝書鳩としての機能を失ったためであって,昭和37年(1962)における精液は,すべて鉄道またはバス輸送に切りかえられた。