既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第7章 家畜衛生

第4節 家畜診療と共済制度

1.家畜診療の変遷

(3)昭和年代の家畜診療

  1 昭和戦前までの家畜診療

  診療技術の多くは,明治,大正年代の進歩によるものが受け継がれ,また獣医学校による教育の進歩と相まって,著しい進歩をとげた。一方動物用医療薬品等も進歩し,動物専用の薬物が少数ではあるが,製造されるようになった。
 陸軍における軍馬の管理,地方の農耕用牛馬の保護,衛生管理等を通して,畜産の進展に診療技術は大きく貢献した。しかし,まだ電気機具等は少なかったので,暑熱時における乳牛の疾病に当たり,扇風機代用として,農家が穀物を選別する「唐箕」により涼を求める等のアイデアが,昭和の初期においても一部の開業獣医師で行われていた。
 薬物の進歩に伴い,内服薬は漸次注射薬に移行し,薬効を高めるとともに奏効を早めたのである。またサルファ剤の出現により治療技術の画期的な進歩をみた。しかし,やがて,日支事変から第2次世界大戦へと拡大した戦中になると,国家総動員法の発動により,獣医師の多くは軍務に服したので,獣医師の著しい不足をきたすようになった。

  2 昭和戦後期における家畜診療

 戦後の安定期を迎え,畜産は,多頭羽飼育に転じ,これに応じて診療体系もまた改変が迫られるようになった。農耕用牛馬が減少し,乳牛が増加する中で,乳牛に対する診療技術は,和牛のそれと似てはいるが,乳牛の体質上から高度の技術が必要となり,従来の一般獣医技術者の診療技術では十分な対応ができなくなった。そこで,産業動物に対しては公的家畜診療所が漸次設けられて,これに対応するようになった。県においても家畜保健衛生所の充実を図り,畜産の発達のため家畜衛生を重点的に取り上げ,診療事業に従事することとした。昭和42年(1967)になると,家畜保健衛生所の診療業務は廃止となり,県農業共済組合連合会,家畜診療所が診療業務を引き継ぎ,共済加入家畜の自衛的診療と予防衛生とに重点を置いて行なわれるようになった。
 またペットブームにより,開業獣医師は都市に集中し,小動物対象の開業者が増加した。これらは競って近代設備を充実し,X線診断,および各種電気機具の使用が盛んに行なわれるようになった。
 昭和51年(1976)に至り,針通電麻酔が実用化され,犬および牛にも容易に応用されるようになり,手術を安易に行なうことができるようようなった。これに使用する穴位は,図7−4−7のように旧来のものが使用されている。また,家畜専用の医療品も多数製造されるようになったが,これに対しては畜産食品に対する薬物残留問題がやかましく,取締りが厳重になった。