既刊の紹介肉用牛繁殖経営診断のまとめ平成12年

肉用牛繁殖経営診断のまとめ 平成12年

6.収益性

 図23に診断農家の成雌牛1頭当たり売上高及び家族労働費を除いた生産原価(以下、生産原価(労賃除)とする。)の推移を示した。

1)売上高
 売上高は平成5年度(234千円)に大きく減少した後、徐々に増加しており、平成 10年度(246千円)は前年に比べて33千円減少したが、平成11年度では再び増加し、前年に比べて13千円増加の259千円となっている。このような売上高の推移はそのほとんどを占める子牛販売収入の増減によるものであり、これには子牛販売価格の影響が大きく、Uの4で示した診断農家の子牛販売価格の推移(図 16)とほぼ同調していることから伺い知れる。ただし、平成 11年度の増加は前年に比べて成雌牛1頭当たり子牛販売頭数が増加したことが影響している。

 図24に診断農家の成雌牛1頭当たり売上高の分布を示した。前年と同様に 250〜300千円の階層が11事例(47.8%)と最も多くなっている。なお、 売上高が150千円を下回る事例が1事例(4.3%)あったが、これは成雌牛1頭当たり子牛販売頭数が 0.43頭と極めて少なかったためであり、分娩間隔の延長と分娩時期が調査期間後半に集中し、期中の子牛出荷が減少したことが影響している。

2)生産原価
 家族労働費は生産原価の高低に及ぼす影響が大きいが、家族労働費の算出は各農家の自己申告による労働時間をもとに行っていることから、やや精度に欠けるため、ここでは家族労働費を除いた生産原価について見ることにする。
 生産原価(労賃除)は平成5年度(99千円)に減価償却費及びもと畜購入費の減少により大きく減少したが、その後は120千円から150千円の間で推移しており、平成11年度は126千円となっている。
 図25に診断農家の成雌牛1頭当たり生産原価(労賃除)の分布を示した。平均は136千円であったが、最大は279千円、最小は29千円とその差は250千円もあり、経営間の差が極めて大きかった。
なお、生産原価(労賃除)が最小の事例は、自家保留牛を評価する手法上の問題で期中飼養牛振替額が大きかったためであり、生産原価(労賃除)が250千円以上の3事例は、減価償却費が高かったためで、それぞれ牛舎の新設、大型機械の導入、規模拡大に伴う経産牛の導入(平均産次数 3.8産)が大きな要因となっている。
ここで、生産原価(労賃除)が5万円以上 10万円未満の診断農家を見てみると、自給飼料の積極的な生産等による購入飼料費の低減や施設・機械等の長期有効利用による減価償却費の低下が生産原価(労賃除)の低減につながっている。


図23 診断農家の成雌牛1頭当たり売上高及び生産原価(労賃除)の推移

図24 診断農家の成雌牛1頭当たり売上高の分布

図25 診断農家の成雌牛1頭当たり生産原価(労賃除)の分布

3)経常所得
 図26に診断農家の成雌牛1頭当たり経常所得及び生産原価(労賃除)の推移を示した。経常所得は近年乱高下を示しており、平成11年度は前年(79千円)に比べてやや増加の84千円となっている。経常所得は売上高と生産原価(労賃除)の増減に大きく影響されるが、図 26から分かるように診断農家の経常所得は生産原価(労賃除)とほぼ対称的に推移していることから、売上高よりも生産原価(労賃除)の影響が大きいと考えられる。よって、繁殖経営で経常所得を向上させるため には、まずは低コスト生産に重点を置いた取り組みをすべきだと思われる。
なお、平成5年度は子牛販売価格の急激な下落により売上高が大きく減少したため、生産原価(労賃除)が減少したにもかかわらず経常所得は減少している。


図26 診断農家の成雌牛1頭当たり経常所得の推移

 図27に診断農家の成雌牛1頭当たり経常所得の分布を示した。経常所得は 100〜150千円の階層が6事例(26.1%)と最も多かった。なお、経常所得が 200千円を超える経営が1事例(4.3%)あった一方、経常所得がマイナス(0円未満)になっている経営が3事例( 13.0%)もあった。
 なお、経常所得が 200千円を超えた事例(207千円)は、施設・機械等の長期有効利用による減価償却費の低下や修理 等を自ら行うことによる修繕費の削減等で生産原価(労賃除、113千円)を低く抑えている上、売上高が330千円と最大で、出荷子牛1頭当たり雌は359千円、去勢は463千円と高く販売している。
また、経常所得がマイナス(0円未満)になった3事例は、Uの6の2)の生産原価(労賃除)で述べた生産原価(労賃除)が 250千円以上の農家と同一である。


図27 診断農家の成雌牛1頭当たり経常所得の分布