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肉用牛肥育経営診断のまとめ 平成11年

 平成10年度に経営診断を実施した肉用牛肥育経営のうち,6事例について成績を取りまとめた。
 肉用牛肥育経営では事例数も少なく,肥育形態も変化があるので,各経営の成績を表1〜5のとおり掲載する。なお,表に参考として先進的畜産経営技術等実態調査(平成10年調査結果)を併記している。 
 診断農家6事例において,去勢肥育を主体とする経営が4事例,去勢肥育と雌肥育の比率が約半々の経営が2事例であった。全6事例のうち,1事例がF1肥育も行っていた。
 肥育牛頭数規模は23.9〜222.5頭の幅で,平均肥育牛頭数は109.0頭であった。
 肥育牛1頭当りの経常所得に着目すると,6事例の平均は,9,148円(-111,272〜92,500円)で,所得がプラスの経営が4事例,マイナスの経営が2事例であった。なぜ,このような経営間格差が起こったのか,肥育牛1頭当りの所得に影響するであろう様々な要因について比較した。

1. 生産技術

 去勢肥育牛における販売価格と肥育牛1頭当りの所得の関係を図1に示している。去勢肥育牛の販売価格と肥育牛1頭当りの所得において差は見られなかった。

図1 出荷肥育牛販売価格と肥育牛1頭当りの所得

 肉質の面から上物率を取り上げ,去勢肥育における上物率(4規格以上)と肥育牛1頭当りの所得との関係について見た。その結果は,図2のとおりである。上物率(4規格以上)と所得の間には,ばらつきはあるが,上物率が上がれば,所得も上がる傾向が見られた。

図2 去勢肥育における上物率(4以上)と肥育牛1頭当りの所得

 増体の面からは日増体重で比較した。去勢の肥育における日増体重と肥育牛1頭当りの所得についての関係を図3に示した。日増体重と所得の間にも,わずかであるが,関係が見られた。

図3 去勢肥育における日増体重と肥育牛1頭当りの所得

 岡山県の示している岡山和牛(去勢)肥育体系において,目標日増体重は0.78kgである。それに比べて,今回集計した経営の日増体重平均が0.69kgと低かった。また,すべての事例において,岡山和牛(去勢)肥育体系の目標より下まわっていた。
 さらに増体を示す指標として,出荷体重と比較した。去勢肥育における出荷体重と肥育牛1頭当りの所得の関係は図4のとおりである。出荷体重と所得の間には,あまり関係が見られなかった。

図4 去勢肥育における出荷体重と肥育牛1頭当りの所得

 肥育日数と肥育牛1頭当りの所得の関係は図5のとおりである。肥育日数と所得の関係は,肥育日数が長くなるほど,所得が低くなる傾向が見られた。
 岡山県の岡山和牛(去勢)肥育体系においては,肥育期間18ヵ月(547.2日)を目標にしている。所得がプラスになっている経営は肥育日数580日以下の範囲にあり,所得のもっとも高い経営は,肥育日数が561日であった。

図5 去勢肥育における肥育日数と肥育牛1頭当りの所得

2.経営面

生産費用においては,肥育経営の生産費用の中でも大きなウェイトを占めている購入飼料費ともと畜費について,肥育牛1頭当りの所得との関係を見た。
まず,肥育牛1頭当りの購入飼料費と肥育牛1頭当りの所得の関係は図6のとおりである。

図6 肥育牛1頭当りの購入飼料費と所得

 ばらつきは見られるが,購入飼料費と所得にはやや強い関係があると思われる。所得を上げようとしたとき,購入飼料費の低減は欠かせないと考えられる。 肉用牛肥育経営において生産費用では,購入飼料費に次いで,もと畜費が大きなウェイトを占めている。肥育牛1頭当りのもと畜費と肥育牛1頭当りの所得の関係は図7のとおりであるが,関係は弱いと思われる。

図7 肥育牛1頭当りのもと畜費と所得

 家族労働費を除いた販売肥育牛1頭当りの生産原価と肥育牛1頭当りの所得における関係は,図8のとおりである。
 大きなばらつきが見られるが,生産原価が下がれば,所得が大きくなる傾向にあると思われる。

 
図8 販売肥育牛1頭当りの生産原価と肥育牛1頭当りの所得

 肥育牛1頭当りの支払利子と所得の関係は図9に示しているとおりである。支払利子が多くなると,肥育牛1頭当りの所得は減少している。
 投資(長期借入金)が大きいか,預託牛が多いか,運転資金(短期借入金,営農貸越)が大きい結果で,肥育牛1頭当たりの支払利子が多くなると,所得に大きな影響があると思われる。

 
図9 肥育牛1頭当りの支払利子と所得

 最後に,飼養頭数規模と肥育牛1頭当りの所得の関係を図10に示している。200頭以上規模の経営を除くと,飼養頭数と肥育牛1頭当りの所得には,関係が見られる。

図10 肥育牛飼養頭数と肥育牛1頭当りの所得

 以上,今回経営診断集計を行い,様々な要因と所得とを比較した結果,所得に影響する要因を以下にまとめる。

生産技術としては,
@肉質を良くすること。
 黒毛和種の去勢肥育経営においては,比較的市場価格の変動が少ない4規格以上を目指すことが目標になる。上物率を上げることによって,枝肉単価を上げ,結果的に販売価格を向上させることが,ある程度,所得を増やすことにつながると考えられる。

A増体を良くすること。
 岡山県の和牛は,増体が良いことが特徴の一つである。今回の集計においては,日増体重のもっとも大きい経営が高い所得を得ている。そのためには,増体の高い素質を持つもと牛を導入し,適切な飼料給与設計とその実行が欠かせないと思われる。

経営面においては,
@生産費用(特に購入資料費)を低減すること。
 生産費用の中でも,大きなウェイトを占めている購入飼料費を下げることによって,所得を確保する。しかし,飼料の品質を落としてまで,低コストにこだわると,肥育成績まで影響すると思われるので,良質な飼料を安価に確保する事が重要である。

A肥育牛1頭当りの負債を軽減すること。
 今回の集計では,肥育牛1頭当りの支払利子と所得の関係において,強い関係があると思われた。支払利子が発生する要因としては,負債の増加が上げられる。その中でも高金利の借入金が増えると,経営を圧迫する。金利の高いものとして,証書貸付などの短期借入金,営農貸越等があげられる。なるべく,それらに頼らない経営を目指すべきである。長期借入金(預託も含む)も多額になると,金利は低いものの,償還元金と支払利子額は大きくなるので,自分の経営規模にあった投資が必要になる。