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調査24事例のデータを,経産牛飼養頭数規模で20頭台,30頭台,40頭台,50頭以上の階層に分けて集計したものが表3である。
それぞれの階層に属する農家戸数は,20頭台が3事例,30頭台が8事例,40頭台が6事例,50頭以上が7事例であった。
各階層間を比較すると次のように整理できる。
各階層の経産牛平均飼養頭数は,20頭台を100とすると,30頭台が126,40頭台が164,50頭以上が326となる。一方,各階層の経常所得総額の平均は,20頭台を100とすると,30頭台が92.5,40頭台が138,50頭以上が149.5となる。本来,規模拡大は所得総額の拡大を目指して行われたわけであるが,このように経常所得総額を比較すると,概ね大規模層ほど高くなってはいるが,未だその効果が十分表れておらず,飼養頭数の違いほどにはなっていないことがわかる。その理由を,50頭以上層とそれ以下の層を比較して検討してみると,以下のように推測できる。
まず,収入面では,50頭以上層は,経産牛1頭当たり産乳量は,各階層のトップの成績でありながら,生乳売上高は下位から2番目となっている。このことは,平均乳脂率が最も低く,平均販売乳価が最も安いことに起因している。
費用面を見ると以下のことが言える。50頭以上層は,1事例を除き,すべてフリーストール(ルースバーン)システムである。このシステムは,システム導入に要する投資額が大きいため,減価償却費が増え,また,借入額も大きくなり,支払い利息が膨らんでいる。また,このシステムはオガクズ等の敷き料を多く必要とするので,敷き料費が高くなっている。さらに,飼養頭数規模の増加に併せて自給飼料生産面積を増やしていないので,飼料自給率の低下から経産牛1頭当り購入飼料費が高額になっている。加えて,飼養頭数規模の増加は雇用労働力の必要性を増やし,中には常用雇用をしている事例もあり,雇用労賃が高くなっている。
以上の結果,経産牛1頭当り経常所得が,他の階層の約50%(20頭台を100とすると,30頭台が75,40頭台が85,50頭以上が49)となっている。
一方,新しいシステムの導入により,省力化が進み,経産牛1頭当たり飼養管理労働時間は大幅に改善され,労働力1人当たり経産牛飼養頭数は大幅に増加(20頭台を100とすると,30頭台が106,40頭台が103,50頭以上が238.5)している。
このように労働生産性は向上したが,一方で経産牛1頭当りの収益性が低下した結果,各階層間の酪農部門の経常所得総額の差が前記のとおりの差にしかならなかったと考えられる。
ちなみに,農家所得総額をみた場合,農家総所得に占める酪農部門割合を勘案すると,低規模層ほど酪農依存率が低い結果,20頭台で約794万円,30頭台が約679万円,40頭台が約793万円,50頭以上が約755万円となり,各階層の差がなくなってしまう。
表 1 経産牛頭数規模別比較
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20=<30 | 30=<40 | 40=<50 | 50=< | |||
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経産牛1頭当たり牛乳販売収入 | 756,049 | 791,518 | 792,336 | 780,352 | ||
子牛育成牛販売収入 | 29,794 | 32,549 | 29,761 | 32,537 | |||
その他 | 7,360 | 1,784 | 20,905 | 463 | |||
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793,204 | 825,851 | 843,002 | 813,353 | |||
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経産牛1頭当たり購入飼料費 |
345,697 |
394,208 |
379,829 |
438,847 |
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敷料費 | 137 | 5,032 | 7,060 | 10,789 | |||
労働費 | 135,289 | 130,677 | 108,136 | 67,428 | |||
うち雇用労賃 | 10,441 | 9,715 | 4,416 | 18,671 | |||
減価償却費 | 110,471 | 107,374 | 96,907 | 119,226 | |||
当期生産費用合計 | 738,555 | 784,154 | 761,158 | 764,895 | |||
経産牛1頭当たり一般管理費 | 73,892 | 98,487 | 113,058 | 95,905 | |||
〃 事業外収益 | 15,967 | 40,418 | 48,552 | 49,800 | |||
〃 事業外費用 | 17,181 | 57,444 | 60,466 | 48,748 | |||
うち支払利息 | 5,473 | 7,103 | 19,228 | 28,189 | |||
うち経産牛処分損 | 6,996 | 42,078 | 37,501 | 17,368 | |||
〃 経常利益 | 53,301 | 13,054 | 49,163 | 38,583 | |||
〃 経常所得 | 180,332 | 135,158 | 153,462 | 87,796 | |||
当期経常所得 | 4,733,455 | 4,380,687 | 6,535,629 | 7,078,201 | |||
労働力員数(人) | 1.96 | 2.39 | 3.08 | 2.79 | |||
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経産牛(頭) | 26.2 | 33.0 | 43.0 | 85.4 | ||
育成牛(頭) | 11.8 | 14.4 | 22.0 | 31.6 | |||
生乳生産量(t) | 213.2 | 279.0 | 363.0 | 755.5 | |||
家族労働力1人当り経常所得 | 2,655,678 | 2,020,116 | 2,261,015 | 3,034,121 | |||
所得率 | 23.3 | 16.3 | 18.4 | 10.8 | |||
農家総所得に対する酪農部門割合 | 59.6 | 64.5 | 82.4 | 93.7 | |||
100kg当り生産原価 | 7,685 | 7,831 | 7,548 | 7,429 | |||
〃 総原価 | 8,594 | 9,202 | 9,054 | 8,497 | |||
労働力1人当経産牛飼養頭数 | 14.0 | 14.9 | 14.4 | 33.4 | |||
経産牛1頭飼養管理労働時間 | 144.3 | 147.3 | 137.4 | 68.3 | |||
経産牛1頭当たり産乳量(kg) | 8,129 | 8,455 | 8,462 | 8,738 | |||
平均乳脂率 | 3.88 | 3.85 | 3.76 | 3.70 | |||
平均無脂固形分率 | 8.69 | 8.68 | 8.68 | 8.79 | |||
平均乳価 | 92.58 | 93.56 | 93.64 | 89.82 | |||
初生子牛販売価格 | 53,203 | 46,077 | 37,735 | 44,287 | |||
平均分娩間隔 | 15.3 | 14.2 | 13.9 | 13.6 | |||
経産牛更新率 | 15.2 | 33.2 | 29.8 | 15.2 | |||
経産牛1頭当り飼料生産のべ面積 | 19.1 | 11.4 | 22.5 | 4.3 | |||
飼料TDN自給率 | 18.1 | 11.0 | 15.4 | 2.7 | |||
購入飼料TDN単価 | 73.2 | 77.4 | 77.5 | 75.7 | |||
乳飼比(育成牛その他含む) | 46.3 | 49.9 | 47.8 | 56.4 | |||
経産牛1頭当り資金借入残高 | 229,880 | 269,283 | 486,542 | 833,165 | |||
経産牛1頭当借入償還負担額 | 50,619 | 33,349 | 80,540 | 62,337 | |||
自己資本比率 | 71.6 | 67.1 | 55.2 | 27.1 |