既刊の紹介酪農経営診断のまとめ平成12年

酪農経営診断のまとめ 平成12年

放し飼い方式導入後の経営の推移と効果

 本県の酪農経営も経産牛1頭当たりの収益性の低下に伴い,飼養頭数規模を拡大して所得の低下を補う動きが多く見られる。しかし,飼養頭数規模を拡大するプロセスで,従来の繋ぎ飼いによる飼養管理システムでは,家族労働力をベースに考えた場合,労力的に多頭化の限界が生じる。その限界頭数は概ね経産牛頭数で70頭といわれている。これを超える規模拡大を図る場合は,飼養管理システムを変更することになる。本県でも平成元年に初めて導入され,平成3年以降徐々に増えつつある放し飼い方式による酪農経営がこれである。平成11年はジャージーも含めると診断対象に5事例の放し飼い方式による酪農経営が含まれている。
 そこで,放し飼い方式に注目し,過去3年間にわたって経営診断を行ってきた3事例について,導入後の推移から放し飼い方式の導入効果を検証することにした。放し飼い方式導入事例の年毎の平均値を時系列で示したのが表4である。
 放し飼い方式の経営は,経産牛1頭当たり産乳量の推移(97年 8,758s,98年 8,911s,99年 8,338s)や繁殖成績(平均分娩間隔 97年 13.7カ月,98年 13.8カ月,99年 14.0カ月)を見ても,技術レベルの高い農家が取り組んでいることが理解できる。また一方で,放し飼い方式導入に伴う多額の投資と多額の負債などにより,特に放し飼い方式導入の初期段階で飼養頭数が計画レベルに達せず,頭数と施設のミスマッチが生じ,一時的に収益性が低下している事例が見られる。
 しかし,ここで紹介する継続事例については,経産牛飼養頭数が着実に増加して当初計画頭数に達したものと思われ,その上で技術レベルが維持できた結果,経産牛1頭当り収益性(経常所得 97年 125,042円,98年 162,056円,99年 156,842円),労働生産性(労働力1人当たり経産牛飼養頭数 97年 31.6頭,98年 37.4頭,99年 40.7頭)ともに改善され,労働力1人当たりの経常所得は97年が4,381千円,98年が6,321千円,99年が6,664千円と順調に伸び,他産業従事者の年間給与額4,680千円(前出)を上回っており,経常所得総額でも,97年が11,475千円,98年が16,038千円,99年が15,663千円となり,所得総額においても勤労者世帯の7,070千円,販売農家の8,680千円(前出)を大きく上回っている。