既刊の紹介酪農経営診断のまとめ平成12年

酪農経営診断のまとめ 平成12年

経産牛飼養頭数規模別比較

 調査25事例のデータのうち,当期経常所得が最高値と最低値の2事例を除外した23事例を,経産牛飼養頭数規模で30頭未満,30頭台,40頭以上70頭未満,70頭以上の階層に分けて,飼養頭数規模と収益の関係を見た。それぞれの階層に属する農家戸数は,30頭未満が6事例,30頭台が9事例,40頭以上70頭未満が6事例,70頭以上が2事例であった。
 各階層の収益水準と収益の多寡に影響を与える主な要因を整理したものが表3である。集計対象経営はすべて家族労働を主体とした家族経営であることから,ここでは経営の収益の良否を判断する指標を経常所得とした。
 各階層間を比較すると次のように整理できる。

1.各階層の飼養規模
 各階層の経産牛平均飼養頭数は,30頭未満が25.1頭,30頭台が35.5頭,40頭以上70頭未満が47.0頭,70頭以上が101.5頭であった。

2.各階層の経常所得
 各階層の経常所得総額の平均は,30頭未満が1,469千円,30頭台が5,604千円,40頭以上70頭未満が6,459千円,70頭以上が10,847千円であった。
 また,経産牛1頭当たり経常所得は,30頭未満が52,503円,30頭台が162,116円,40頭以上70頭未満が138,897円,70頭以上が105,538円であった。
 一方,家族労働力1人当たり経常所得は,30頭未満が1,121千円,30頭台が2,525千円,40頭以上70頭未満が2,616千円,70頭以上が4,704千円であった。
 このように30頭台で家畜収益性が最も高く,70頭以上の層で労働収益性が最も高いという結果となった。70頭以上の層では家族労働力1人当たりの所得が他産業従事者の年間給与額4,680千円(平成11年岡山県内製造業 従業員5人〜29人 毎月勤労統計調査の年間給与額,年間労働時間数より算出)を上回っており,また所得総額においても勤労者世帯の7,070千円,販売農家の8,680千円(平成10年 農業経営統計調査 農林水産省 家計調査 総務庁)を上回っている。所得総額に関しては,40頭台も農家総所得に占める酪農部門の所得割合が91.1%であることから,農家総所得は7,090千円となり,勤労者世帯の平均所得を上回った。

3.各階層の売上
 収入面を見ると,家畜収益性が最も高い30頭台の経産牛1頭当たり売上高は824千円と最も高くなっている。これは経産牛1頭当たり産乳量が8,441sと各階層のトップの成績であり,生乳販売収入が797千円と高いためである。30頭未満の層は,経産牛1頭当たり産乳量が6,988sと各階層で最も低く,その結果,生乳販売収入も640千円と最も低く,売上高も660千円と最も低くなっている。一方70頭以上の層は,経産牛1頭当たり産乳量は8,123sと30頭台に次いで高いが,生乳販売単価が低く,副産物の販売も少ないため,売上高は742千円と3番目になっている。

4.各階層の生産コスト
 次に生乳100kg当たりの生産コストを見ると,30頭未満が8,908円,30頭台が7,391円,40頭以上70頭未満が7,533円,70頭以上が6,856円となっており,大規模層ほど低くなる傾向にあることがわかる。これには規模のメリットによる労働費の削減効果が大きく貢献している。このことは家族労働費を除いた生産コストで比較すると,順序が大きく入れ替わることからも理解できる。

5.各階層のその他の特徴
 各階層のその他の特徴をみると,70頭以上の層で経産牛1頭当たり飼料作付面積が6.2aと,他の層が10a以上であるのに比べて少なく,その結果,飼料TDN自給率も5.4%と低くなっている。しかしその一方で,大量購入によるスケールメリットで購入飼料のTDN単価は59.4円と,他の層が60円以上であるのにくらべて低くなっている。
 労働生産性を示す指標をみると,労働力1人当たり経産牛飼養頭数は30頭未満が15.2頭,30頭台が17.2頭,40頭以上70頭未満が18.4頭,70頭以上が42.3頭,また経産牛1頭当たり飼養管理労働時間は30頭未満が162.5時間,30頭台が137.5時間,40頭以上70頭未満が111.2時間,70頭以上が49.3時間となっており,労働生産性を示す指標は飼養頭数規模が大きくなるほど向上している。また,70頭以上の層で飛躍的に向上しているが,この層はフリーストール等放し飼いによる飼養方式(以下放し飼い方式と言う)を採用しているためであると考えられる。
 
6.規模拡大の効果
 以上の結果から規模拡大に伴う効果を整理すると,飼養頭数規模が大きくなるのに比例して,経常所得総額並びに労働力1人当たりの経常所得額が大きくなる,ということになる。特に放し飼い方式を採用している70頭以上の層では経常所得総額並びに労働力1人当たりの経常所得が飛躍的に増加している。このことは,放し飼い方式にすることにより労働生産性が飛躍的に向上して,労働力1人当たりの管理可能頭数が増加したことによるもので,70頭規模以下の繋ぎ飼いによる規模拡大の効果が比較的穏やかであるのに比べて,顕著な効果が現れている。