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酪農経営診断のまとめ 平成14年

酪農部門償還額控除後所得総額の比較

 家族経営を前提とした場合、経営継続の条件を示せば以下の2式で表すことができる。

 @ 所得−借入金償還額≧家族最低所要生計費

 A 家族労働力1人当たり労働報酬≧地域の他産業従事者の給与


 すなわち、所得総額で必要な生計費と借入金の返済を賄えることと、他産業への労働力(特に後継者)の流出を食い止めることができることである。
 ところが現実には、調査23事例の酪農部門の償還額控除後の経常所得をみると5,400千円以下(平成12年度の販売農家の家計費支出額【農林水産省 農家経済調査】)の経営が11事例ある。家族員数や家族年齢構成で単純に当てはめることは危険であるが、家族最低所要生計費を5,400千円とすると、@式を満足している事例は12事例で、11事例が満足していないことになる。
 また、家族労働力1人当たり年間経常所得についてみると、他産業従事者の年間給与額4,670千円(平成13年の岡山県毎月勤労統計調査【従業員5人以上の企業の現金給与総額】のデータを利用し、労働時間を2,200時間として計算)以下の経営が17事例で、A式を満足している事例は6事例ということになる。

 そこでまず、@式の家族最低所要生計費に着目し、償還額控除後所得総額が5,400千円未満、5,400千円以上に分けて、調査対象事例を比較検討した。なお、調査23事例のデータのうち,規模拡大初年度で飼養頭数が計画と大きく乖離している事例は除外し、22事例のデータで検討した。
 その結果、各階層に属する農家戸数は、5,400千円未満(下位層)が11事例、5,400千円以上(上位層)が11事例であった。 
 各階層の収益に影響を与える主な要因を整理したものが表1である。 
 各階層間を比較すると次のように整理できる。

1.飼養規模

 ここでは所得総額の比較をしているので、飼養頭数規模の大きな経営が有利となる。各階層の平均経産牛飼養頭数は、下位層36.5頭、上位層65.6頭であった。

2.経産牛1頭当たり経常所得

 各階層の経産牛1頭当たり経常所得は、下位層99.7千円、上位層223.7千円で、2倍以上の開きがあった。

3.経産牛1頭当たり売上高

 経産牛1頭当たり経常所得の多寡は同売上高と費用に影響される。
そこでまず売上高を比較すると、経常所得と同様、下位層で815.6千円と低く、上位層で932.3千円と高くなっている。このことは、経産牛1頭当たり年間産乳量が下位層8,213s、上位層9,225sと、下位層で低く、上位層で高い結果であり、また生乳1s当たり平均販売乳価も下位層94.58円、上位層95.79円と、上位で高くなっている。平均販売乳価に差が生じたのは、乳成分が下位層で低く(Fat3.88 SNF8.75)上位層で高い(Fat3.92 SNF8.77)ことによる。

4.生乳100kg当たり生産原価

 生乳100kg当たりの生産原価を見ると、下位層8,078円、上位層7,023円で、下位層で高く上位層で低くなっている。これは分母となる生乳生産量が上位層で多く、下位層で少ない結果である。

5.その他の特徴

 各階層のその他の特徴をみると、経産牛1頭当たり資金借入残高は、下位層512千円、上位層286千円で、下位層では上位層の1.8倍の残高となっている。このことは支払利息額と償還負担額に影響を与えており、支払利息額は、下位層が17千円、上位層が7千円、借入金償還負担額は、下位層は95千円、上位層は39千円と、それぞれ下位層で大きな負担となっている。

6.まとめ

 以上の結果を整理すると、償還額控除後の所得総額の大きな経営は、飼養規模も大きく、また、高い技術力に支えられて個体当たりの収益性も高い経営であることが見えてくる。
 上位層の平均経常所得額は14,312千円、家族労働力1人当たり経常所得5,746千円で、他産業以上の総所得と労働報酬を実現しており、上記の@式、A式を軽くクリアーしている。
 下位層は酪農部門平均経常所得が3,720千円、農家総所得に対する酪農部門割合が75.5%であるから、農家総所得は4,927千円となり、販売農家の家計費支出額5,400千円を下回っている。