既刊の紹介岡山県畜産史

第1編 総論

第3章 昭和前期における畜産の推移

第7節 家畜衛生

1 家畜保険組合等の設立

 昭和4年(1929)3月,家畜保険法(法律第19号)が公布され,同5年(1930)川上郡家畜保険組合が設立されたのを初めとして,各郡市単位に順次家畜保険組合が設立されて行った。
 昭和18年(1943)1月,岡山県獣医師会が設立されている。

2 おもな家畜伝染病の発生状況

 昭和4−5年(1929−30)に,県南部に牛肺病が8頭発生した。同病は,昭和16年(1941)にも8頭の発生を見たが,その後は全く跡を絶っている。昭和6−7年(1931−32)には,豚コレラが県南部に500頭以上発生した。同病は,同16年(1941)にも164頭発生している。気腫疸については,予防接種に努めながらも,年々数頭の発生が跡を絶たない状態で推移している。畜牛結核病も,この年代には年々数10頭ないし100余頭の発生で推移している。

3 トリコモナス症の発生と家畜人工授精の実用化

 昭和10年(1935),作州地方にトリコモナス症が発生し,家畜伝染病予防法の適用を受けて処置されることになった。本病は,同年こそ15頭の病牛を見たに止まったが,翌11年(1936)には1,800頭をこえ,にわかに大問題となり,同16年(1941)40頭の発生をもって終息するまで,毎年数100頭の発生を見たので,牛の繁殖障害除去は当時の重要な衛生業務であった。本病は,大正11年(1922)ごろ,兵庫県但馬地方に初めて発生した牛の集団的不受胎として大問題となったもので,農林省獣疫調査所(現在の家畜衛生試験場の前身)を中心とする調査の結果,昭和9年(1934)初めて病原虫が発見されたものである。農林省獣役調査所中国支所(後の家畜衛生試験場中国支場,初代支所長二村彦次郎)が,昭和11年(1936)兵庫県朝来郡和田山町に新設されたのも,トリコモナス症の防圧が第一の使命であった。さて,本症の発生による受胎率の低下が,中国地方各県において牛の人工授精実用化への引金となり,岡山県においては,昭和19年(1944)7月10日,苫田郡加茂町に県下で初めて家畜人工授精所が開設された。
 昭和10年(1935),雛白痢検査が開始された。本病は,昭和15年(1940)になって,県下に初めて発生を見ている。

4 獣医手制度

 昭和15年(1940)4月,「獣医師等の臨時特例ニ関スル法律」が公布された。これにより,一定の資格により獣医手という制度が設けられた。獣医手は,市町村,畜産組合,同連合会等の団体職員として,その団体の事業に属する家畜の診療に従事することができるものである。この制度は,昭和24年(1949)6月,新制の獣医師法(法律第186号)が公布され,同年10月施行されたときまで存続した。