既刊の紹介岡山県畜産史

第1編 総論

第4章 昭和戦後期における畜産の発達

第5節 畜産経営の進展

1 家畜の導入

 昭和27年(1952)年度から有畜農家創設事業が実施されることになり,岡山県では同年5月「岡山県有畜農家創設要綱」を定めて,家畜導入資金の融資の斡旋や利子補給などを行なうことになり,ここに初めて複合経営ながらも「畜産経営」が現われ,経営の規模拡大と近代化への第一歩をふみ出すことになったのである。初め無畜農家の解消に主眼を置いて,家畜(乳牛,役肉用牛,馬,緬羊,山羊および豚)を導入する方向から,零細規模農家の飼養頭数増加による規模拡大に指向し,乳牛においては集約酪農地域,役肉用牛においては子牛生産および肥育地域に,それぞれ重点的に計画的な導入が行なわれた。
 昭和32年(1957),国の施策を受けて,11月8日,岡山県規則第70号をもって「寒冷地等における国有雌牛の飼育管理の委託及び譲渡等に関する規則」を定め,いわゆる寒冷地貸付牛制度が始まった。この年第1回の貸付事業として,和牛(肉用牛)が2地区40頭(阿哲郡哲多町本郷地区および御津郡加茂川町加茂川開拓),乳牛が勝田郡勝北町日本原開拓に20頭(ホルスタイン種)貸付されたのを初めとして,その後,昭和38年(1963)度までに,乳牛においては,11地区に対して,ホルスタイン種480頭,ジャージー種180頭が導入され,役肉用牛においては,27地区に対して740頭が導入されている。
 昭和33年(1958)1月17日には,岡山県中小農畜産振興対策要綱(岡山県告示第710号)が設けられ,38年(1963)度までに,肉用牛3,465頭(16農協)および豚6,494頭(6農協)が家畜導入補助金交付の形で導入されている。
 なお,昭和28年(1953)9月に設けられた有畜農家創設特別措置法(法律第260号)に基づく金融制度は,昭和36年(1961)11月から農業近代化資金へ移行している。

2.畜産関係制度金融

 昭和26年(1951),農林漁業資金制度が設けられ,いわゆる制度金融と呼ばれる一連の金融制度が生まれ,農業者はこの制度の活用により,経営に自主性をもつこととなった。 

 (1) 農林漁業金融公庫資金

 昭和28年(1953)に創設され,組合系統金融機関その他一般金融機関が融資を困難とする長期かつ低利の資金を融資することをねらいとするもので,昭和38年(1963)には農業構造改善事業をはじめ,一連の経営改善の推進ならびに自立経営農家育成など,資金種目の拡充整備が図られた。昭和39年(1964)6月8日,農林漁業金融公庫法(法律第58号)が公布された。
 農業資金のうち,畜産農家を対象とするものは次のとおりである。
     資金の種類        資金の対象となる事業
  第二次農業構造改善事業推進資金 牛,種豚,農畜舎,農業生産環境施設等
  農地等取得資金         畜産基地建設事業基本計画その他に基づく採草放牧地の取得
  未墾地取得資金         畜産経営環境整備事業,農用地開発公団事業計画等に基づく未墾地の取得
  畜産経営拡大資金        畜産経営拡大農業(6頭以上)の育成に必要な乳牛,肉牛,畜舎等の導入
  (昭和38年度から)
  総合施設資金          農業経営を自立経営にするための家畜,畜舎等の導入
  (昭和38年度から) 

 (2) 農業改良資金

 昭和31年(1956)度,「農業改良資金助成法」(法律第102号)に基づいて発足したもので,この資金のうち畜産農家を対象とするものは,技術導入資金と農業後継者育成資金である。
  資金の種類      融資の対象となる事業
  技術導入資金     中核農家等農作業受託事業(飼料作物部門)
             生乳品質改善 ・畜舎内衛生管理技術改善 ・農業者技術開発 ・家畜排泄物処理技術改善事業および家畜排泄物土壌還元技術導入事業
  農業後継者育成資金  部門経営開始および経営拡大(酪農,肉牛,養豚,養鶏)
  (昭和39年度から)
 農業後継者育成資金の需要実績については,畜産部門が最も多い。 

 (3) 農業近代資金

 昭和28年(1953)9月,「有畜農家創設特別措置法(法律第260号)」により,有畜農家創設資金制度が確立されたが,これは,昭和36年(1961)度に,「農業基本法(法律第127号)」に基づく金融政策の一環として,農業者等の資本装備の高度化と経営の近代化のために必要な資金の長期かつ低利供給と,系統資金の活用とを志向した農業近代化資金が,農業近代化資金助成法(昭和36年,法律第202号)により設けられたので,この資金制度へ移行した。この資金制度は,農業制度金融の中核的存在として発展した。この資金には必要により岡山県農業信用基金協会の債務保証が付されている。
  資金の種類      融資の対象となる事業
  健構造物造成資金   畜舎,堆肥舎,牧柵,育すう施設等
  農機具取得資金    畜産用機具等の取得
  家畜購入育成資金   牛(預託事業を含む),馬,めん羊,山羊または豚の購入または牛豚の育成(いわゆる4号資金)
  大臣特認資金     肥育牛,肥育豚,鶏の購入,肥育牛の育成 

 (4) 自立農業者育成資金

 自立経営をめざす農業者が,経営を改善し,または拡大する等,農業経営に必要な資金であって,国の融資制度によって融通できがたい資金需要を満たすため,長期かつ低利の融資措置を講じている県独自の制度である。 

 (5) 単県制度資金(農業資金)

     農業後継者資金
 「岡山県農業後継者資金融資要綱」により,農業近代化資金の追加利子補給を,県,市町村で行なう(年1.75%ずつ)もので,昭和41年(1966)度創設され,農業近代化資金のうち前掲の資金を対象とする。
 この資金に対する酪農についての需要割合が大きい。

     畜産環境改善資金
 「岡山県畜産環境改善資金融資要綱」により,昭和46年(1971)度に設けられたこの資金は,畜産経営を営む農業者等が,家畜の排泄物等の処理施設の整備改善,または,立地条件等から経営を移転し,または経営移転により住居を移転するに必要な資金について,農業近代化資金の追加利子補給(年県3.75%,市町村1.75%)するもので,農業近代化資金のうち,次の畜産施設を対象としている。すなわち建構築物造成資金,農機具取得資金,大臣特認資金(特定農家住宅の改良,造成または取得に必要な資金に限る)に掲げる資金のうち,家畜の排泄物処理施設,立地条件等により経営移転を必要とする場合に,上記施設を併設する畜舎等の施設または住宅の施設,その他家畜の排泄物等の処理に必要な施設である。

     その他の単県利子上乗せ制度資金
 これらのうち,畜産関係のものは,同和地区農林漁業振興資金,農業団地育成資金および水田転作資金である。
 なお,昭和48年(1973),「岡山県畜産経営特別資金融通基金条例」により,畜産経営安定基金を設置し,利子補給の方途を講じている。

3.農業構造改善事業

 昭和36年(1961)6月12日公布施行された「農業基本法(法律第127号)」の第2章第21条に基づいて,農業構造の改善についての施策を行なうこの事業は,時代の変遷とともに,その事業の性格が変化している。
 第一次構造改善事業は,昭和36年(1961)度に計画地域を指定し,翌37年(1962)度から事業実施された。期間は昭和45年(1970)までの10か年間であって,事業の性格は,農業生産の規模拡大と協業組織の育成をおもなねらいとしたもので,昭和44年(1969)度までに74地域(134地区)において実施され,128基幹作目がとりあげられ,事業費総額65.9億円(うち補助事業費57.2億円,融資単独事業費8.7億円)が投入された。このうち,基幹作目を家畜または畜産物とする地域を,年度を追って列挙すれば次のとおりである。すなわち,昭和37年(1962)度においては真庭郡新庄村の肉用牛(パイロット事業)に始まり,牛乳を基幹作目とするものが小田郡美星町,後月郡芳井町,上房郡賀陽町および川上郡成羽町の4地域,鶏卵を基幹作目とするものが吉備郡高松町(現岡山市)および後月郡芳井町の2地域であった。38年(1963)度においては牛乳が2地域(津山市および川上郡川上町),鶏卵が1地域(津山市),39年(1964)度には牛乳が3地域(上房郡有漢町,真庭郡久世町および勝田郡奈義町),40年(1965)度には牛乳が2地域(御津郡加茂川町および真庭郡八束村),41年(1966)度牛乳が3地域(真庭郡川上村,勝田郡勝北町および上房郡賀陽町),42年(1967)度には牛乳1地域(勝田郡勝北町の再),肉用牛2地域(真庭郡湯原町および中和村),43年(1968)度には牛乳3地域(上房郡北房町,真庭郡落合町および英田郡作東町),肉用牛2地域(真庭郡勝山町および久米郡久米町)鶏卵1地域(真庭郡落合町),44年(1969)度には鶏卵1地域(真庭郡落合町の再)であった。なお,この事業におけるな事業種目をみれば,土地基盤整備事業において,草地造成改良,牧野隔障物設置,牧道などであって,経営近代化施設においては飼料生産調整,畜舎,放牧施設,家畜管理所,育すう施設,集乳所,鶏卵集荷所,畜産センター等となっている。
 昭和45年(1970)度から第二次農業構造改善事業に移行したが,昭和51年(1976)度までに家畜または畜産物を基幹作目とする地域を認定年度順に見れば,昭和45年(1970)度に真庭郡八束村,津山市,勝田郡勝北町の3地域が牛乳,翌46年(1971)度に上房郡賀陽町および真庭郡川上村の2地域が同じく牛乳,48年(1973)度には勝田郡奈義町の牛乳と肉牛,翌49年(1974)度は真庭郡八束村の牛乳,51年(1976)度には川上郡備中町の豚となっていて,牛乳7,肉牛1および豚1であった。第二次農業構造改善事業は,規模の大きい自立経営農家を育成することがねらいとなっていて,いわば少数精鋭主義により特定の対象者に手厚い援助の手をさしのべるものであった。
 昭和53年(1978)度から10か年計画(前期および後期各5か年)で実施されることになった第3次農業構造改善事業においては,従来の農業生産至上主義からさらに前進して,地域としてとらえた農村の環境整備などをねらいとして,@中核農家の育成(規模の大きい農家の育成),A農業の複合化(多角経営),B土地の高度利用(利用率の向上),C農村の環境整備(集落道整備,集落用排水整備,コミュニティハウスなど)を掲げて将来の農村づくりをめざしている。