既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第7章 家畜衛生

第3節 家畜人工授精の発達

2 家畜人工授精技術の進歩

(2)凍結精液

   1 凍結技術の進歩

 精子は凍結保管することによって半永久的に保存可能で,輸送距離も無制限に拡大し得ることが証明された。牛の凍結精液の技術が世界ではじめて公表されたのが昭和27年(1952)デンマークのコペンハーゲンで開催された第2回国際家畜繁殖学会においてであった。日本でも農林省畜産試験場(千葉市)で西川義正(現帯広畜産大学長)らによって,いち早く研究が開始され,その後,和牛については昭和33年(1958)から当時京都大学教授であった西川らによって主として技術的な研究がなされた。また,実用化については,全国和牛登録協会が京都大学とタイアップして,同協会の計画する優生計画(優秀個体計画生産計画)や育種登録事業の実行に当たり,全面的に凍結精液による人工授精を採用したのにはじまり,今日に至っている。これらは肉用牛の優秀な種雄牛の精液を,産地を異にする優秀な雌牛に計画交配することにより,優秀な子孫を得ることを直接の目的としたもので,凍結精液を用いることによって,はじめてそれが可能となるものである。最近に至って,これらとは別に,各県それぞれの県内においても,肉用牛の種雄牛を集中管理して,凍結精液を利用して改良増殖を効率的に進める事業が行なわれている。また,乳用牛については,優良種雄牛を集中管理する家畜改良事業団の各種雄牛センターにおいて,凍結精液を調整して各県の需要に応じている。和牛の凍結精液調製の初期におけるおもな事例をあげると次のとおりである。

   昭和31年(1956)10月  栃木県種畜場で採取した和牛精液を農林省畜産試験場(千葉市)で凍結。
   昭和33年(1958)6月  広島県比婆家畜保健衛生所で採取した第21深川号の精液を京都大学で凍結。
   昭和33年(1958)11月  兵庫県美方郡村岡町で茂福号の精液を,初めて現地凍結することに成功。

   2 精液の凍結方法

 凍結精液の現地凍結については,はじめ西川義正博士考案の現地凍結器によるドライアイス,アルコール法が用いられ,摂氏マイナス79度に保存していたが,昭和42年(1967)に液体窒素による摂氏マイナス196度に急速冷却して保管する方法がとられるようになり,液体窒素保管器が各地に普及している。

   3 全国和牛登録協会の優生計画において実施された凍結精液の授精成績

 農林省中国農業試験場畜産部(昭和40年)の『和牛論叢』によれば全国和牛登録協会の実施している優生計画において,現地凍結精液の計画授精部門を担当した西川義正(当時京都大学教授)は「和牛における凍結精液の活用」という報文の中で表7−3−2のような成績を発表している(昭和37年3月現在)。

   4 肉用牛改良基地設置事業

 昭和38年(1963)に開始されたこの事業により,京都,兵庫,鳥取,島根,岡山(和牛試験場)広島および山口,のいわゆる中国7府県に対し,液体窒素による精液の処理,保管および輸送器具の購入設置に対し,国庫補助がなされ,指定種雄牛の計画交配に凍結精液を利用することになった。
 その他凍結精液の利用事例を挙げると,昭和37年(1962)10月に岩手県下で採取した凍結したアバーディンアンガス種の精液を,京都大学において保管し,これを山口県下で使用した。同年から38年(1963)7月に広島県下で採取し,凍結した和牛の精液を,京都大学において保管し,これを岐阜県下で使用した。
 なお,京都大学には昭和35年(1960)ごろから凍結された多数の優秀な和種種雄牛の精液が将来の有効利用に備えて永久保管されている。