既刊の紹介岡山県畜産史

第2編 各論

第7章 家畜衛生

第5節 乳肉衛生

2 牛乳衛生の進展

(2)牛乳の殺菌について

 昔から家庭に配達された生乳を,家庭では土鍋で煮たてて,表面にできる「牛乳の皮」と称する蛋白や脂肪の膜とともに飲んでいた。
 明治33年(1900)4月,内務省令第15号による「牛乳営業取締規則」には,昭和8年(1933)に大改正が行なわれるまで,牛乳の殺菌についての規定はなかった。
 「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年厚生省令第52号)(乳等省令と略称)が公布されるまでは,牛乳処理業者は,県内各地に数多く点在し,その地域において育児用または,病人用として牛乳を製造販売していた。当時は,大部分の乳処理業者は,個々に乳牛を少頭数ずつ飼育し,処理行程もそれぞれ独自に行ない,密栓(王冠),殺菌後,冷却しないで,温かいままの牛乳を宅配していた。このような実情の中で規則により搾乳施設基準や牛乳規格基準が保健所によって厳重に指導されるようになったため,零細業者は施設を改善することを困難として廃業する者が出た。
 昭和8年(1933)の改正で,はじめて高温殺菌方法(摂氏95度以上において20分間),または,低温殺菌方法(摂氏62度から65度において30分間加熱)のいずれかの方法で殺菌を行うことを規定した。

 〔簡易方法〕

 ドラム缶を半分に胴切りした型の鉄板製のものの底部に水を入れ,棚を設けて牛乳ビンを並べ,上方はトンガリ帽子のようにしぼって温度計をつけ,下からまきか炭で熱して,摂氏80度ぐらいで30分から40分間加熱する。

〔バック機械方法〕

 1メートル立方あるいは多少奥行きの深い箱型の鉄板製で,前面は蝶番で全開され,底部中央から蒸気を吹き込み(摂氏63度30分),2段または3段の棚に50本ずつ金網篭に入った牛乳ビン(密栓)を並べ,ビンと牛乳を同時に殺菌する。
 従来の省令「乳,乳製品及び類似乳製品の成分規格等に関する省令」が昭和26年(1951)12月,厚生省令第52号をもって「乳等省令」に改正された。これによるおもな殺菌方法は次のとおりである。

 1 瞬間殺菌法(摂氏85度,15秒間)
 2 高圧滅菌法(摂氏115度以上,15秒間)

 昭和35年(1960)5月,「岡山県乳質改善指導要網」が制定され,原乳衛生対策として,乳質改善事業がはじめられた。これは30年(1955)ごろから,県衛生部で乳質改善事業を取りあげる府県があらわれ,岡山県でも34年(1959)から試行したものを,要綱により本格的に実施することになったものである。この事業は,岡山県乳質改善協議会が実施主体となり,毎年6月から10月末までの5カ月間,生乳の細菌検査,塵芥検査,酸度,比重,風味,2等乳出荷率の6項目について毎月2回検査するもので,衛生部は細菌および塵芥の検査を分担している。
 昭和38年(1963)になると,牛乳等の販売日の標示について,違反取締りを強化した。
 昭和43年(1968)に「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」が改正され,現在では次の殺菌方法がプラントで実施されている。

 1 連続式超高温殺菌法(摂氏120度から150度,1秒から3秒以内)
 2 連続式高温短時間殺菌法(摂氏72度以上,15秒以上)