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1.国家保証
フランス人は,食に情熱をかける食いしん坊が多いと言われ,彼らの話題はまず,食べ物,そしておらが郷の味自慢です。
この国民性から,ワイン,ブランデー,酪農製品,農産品を対象として,国がその製品を保証する,『原産地呼称統制』と呼ばれる制度があり,認可された製品にはマークの表示が許されます。
この制度が保証する内容は,産地,原材料や製造方法の確かさ,そして品質です。したがって,指定産地ならではのオリジナリティを持つことは最低条件として,その他多くの細かな規定をクリアする必要があり,それだけに認可されることは,高い付加価値が保証され,価格にも反映されています。
数百種類あると言われているフランスのチーズのうち,現在,33種類が認可されています。消費者,生産者サイド双方のこだわりから,伝統の味は育まれているのです。
2.生産者の誇り
チーズを実際製造している現場をいくつか訪問したなかで,家族だけでチーズ作りをしている農家もありました。
写真1は,オーヴェルニュ地方でサン・ネクテールというチーズを作っている農家の製造場です。この農家製サン・ネクテールは,牛乳に凝乳酵素を入れ,凝乳をトウモロコシ大に切り脱水したカードに塩味を付して,型に詰めます。この後,プレス,表面乾燥し,専用の熟成庫に入れます。この熟成庫が特徴的で,その昔,先祖が生活をしていたという石室に棚を設けて,ワラを敷き詰めた上にチーズを置きます。熟成庫にある間は,2〜3回塩水で表面を洗います。製品として出荷されるには,5〜8週間が必要と言われます。また,原料となる牛乳は,未殺菌で使用することと,熟成庫中のワラとカビが醸し出す匂いから,このチーズの身上である個性的な匂いを得ることができると言われます。
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写真2は,同じオーヴェルニュ地方で,サレールというチーズをつくっている農家の製造場です。
このチーズの製造方法は,概ね前述のサン・ネクテールと似ていますが,特徴が何点かあります。
第1点は,写真3にある樽です。この樽で乳酸菌による発酵を行いますが,製造後の洗浄は行わず,樽に付着している乳酸菌が毎回使用されます。
樽が古くなってこれを更新する際には,チーズ製造中にできるホエーで,3カ月程度洗浄し使用するそうです。これにより,乳酸菌が樽に住みつくようになるという訳です。
第2点は,原料となる生乳の利用期間が前述の制度により規定されており,5/1〜11/1までの期間で搾乳された生乳のみが利用されるということです。
この期間以外は,サレールとしての製品販売は許されず,単価の異なる他の製品として出荷されます。
こうした農家で印象的だったのが,自分のつくるチーズの話をする時の豊かな表情です。
まるで家族の紹介をするような,『聞いてくれ』と言わんばかりに話す姿に,自分たちの作るチーズに対する誇りと自信が,満ち溢れていたのです。
3.今後のゆくえ
フランスにおいても,酪農の近代化や集約化が著しく,チーズに対する影響も逃れられないものがあります。
一方では,伝統的手法で作られているチーズを守るために製品保証の制度が生まれ,生産者においては,価格に反映することからも認可を求める動きが非常に活発なのです。
日本国内においては,数字で見るナチュラルチーズの消費,生産量は伸びており,各地で『手作りチーズ』と言われる小規模生産者も年々誕生しています。生産されるナチュラルチーズの内訳は,ゴーダチーズ,カマンベールチーズ,クリームチーズでほぼ占められており,求められているチーズが,まだまだ食べやすいものに集中していることがうかがえます。
しかし,チーズ文化の流行などにより,専門家の間でも手作り感のある特徴的な風味を有するチーズが今後の消費,生産量を左右すると言われています。
何百種類あると言われるナチュラルチーズのなかから輸入販売されるものも,多くの種類が見受けられるようになっています。これらナチュラルチーズに消費また生産の立場から触れてみて,その魅力を探究してはいかがでしょうか。