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 飼料及び藷類の統制撤廃は何れ近い将来に於て行われるだろうが,統制の解かれた後に甘藷を何の様に農業経営の中へ取入れ,又有畜農業と結びつけるかを考えて見たい。飼料用として甘藷の持つ役割は大きく,安価で生産され多量の収穫を示すものであり此点他の作物の追従を許さぬ処である。
 甘藷は言う迄もなく戦時中から戦後に於て一躍有名となり,戦前の生産率の3倍位の増収は容易で反当600貫の収穫は珍しくなくなったが,其の大きな原因は食糧の不足から主食の代替として認められた事である。これを生産技術から見れば,優良品種の出現と育苗の進歩であり,甘藷と言えば高系4号と言う風に栽培されて居り,その品種の占有面積は本県でも約大半を占めて居るだろう。又従来は種藷の密植で貧弱な苗を数多く挿して居たが現在では種藷の疎植と1本1本の見分けも可能となり,生産技術の向上はめざましいものがある。
 今迄余りにも愛されて来たものが見放され様として居る今日いよいよ甘藷自身の持つ能力を発揮しなければならなくなり,唯主食間食のみに依存する事なく加工,飼料用として伸び我々も用途の広い事を再認識し何処迄も活用し用途に適した品種の利用と生産物の利用が今後に残された課題であろう。そこで飼料用としての甘藷の今後の在り方について検討して見ると甘藷は澱粉価の高い作物で,その生産量も茎葉,塊根共に高く塊根600貫あるとすれば茎葉600貫以上あり,これからの飼料から考えて見ても出来得る限り濃厚,粗飼料共に安価で自給生産される事が望ましいのは言う迄もないが,甘藷の茎葉の利用を重点に生のまま及び乾燥し切断するものを他の飼料として配合して与えるか,サイレージとして給与し,塊根を生のままか煮沸し与える外澱粉粕の利用等,数多く残されて居り,蛋白質に不足している点は豆科植物で補い,藷のみ単用せず各種の飼料と配合すれば一層飼料価値の高いものとなる。
甘藷と他の作物の飼料価値を見ると
| 種類 | 粗蛋白 | 澱粉価 | 種類 | 粗蛋白 | 澱粉価 | 
| 米糠 | 8.6 | 70.0 | 甘藷生 | 0 | 18.6 | 
| フスマ | 10.9 | 52.5 | 甘藷乾 | 0 | 76.0 | 
| 大麦 | 8.3 | 71.2 | 甘藷蔓(生) | ||
| 大豆 | 29.2 | 83.5 | 甘藷蔓(乾) | 9 | 31.6 | 
| 青刈大豆 | 14.6 | 32.1 | 燥粉粕(乾) | 0 | 56.8 | 
 飼料用として具備すべき条件は茎葉塊根共に多収であり,澱粉価の高い事で,味は美味に越した事はないが,主として食用とするから淡白なもので充分で,黒班病の抵抗性,貯蔵力をも併せて考えねばならない。品種間に於て,地上,地下部の重量の均衡の差はあるが大体同一である。
 育苗・栽培・収量からみれば長蔓系統の方が短蔓系統の品種より優れて居るが農林8号等の如き短蔓で育苗困難なとは言えるが育苗温度を他の品種より3〜5度高くし(30〜33)節間を伸ばす様に育苗すれば良い,以上から推察すれば左の品種が挙げられる。
高系4号=育苗容易・蔓の伸長良く,地上,地下共多収,土地条件を選ばず
黒班病弱く貯蔵力強澱粉歩留15〜18%
農林2号=育苗容易蔓の伸長良く地上地下共に多収
黒班病弱(中)澱粉歩留23%貯蔵力強
農林8号=育苗困難蔓の伸長悪く最も多収味・淡白旱魃地に最も強く澱粉歩留12%飼料専用
 其の他「兼六」の如きビタミンAを多く含み,肥沃地等に於て多収を示す品種もある。
 普通なまのまま与えるのが多いが乾燥させ細断又は粉砕し他の飼料と配合する外,半日日乾して青刈大豆等と混合細断しサイロに詰めたサイレージとする。
 茎等の一部は採苗石そのまま伸長させ又は適当な間隔に採苗石の種藷を移植し垣根仕立等を行い(最初は人工誘引する)蔓の伸長を利用し飼料とする等一つの方法であるが,乾燥貯蔵の場合は樹木等に巻付けるか穂木に掛け,空気の流通を良くし葉を落とさぬ様に乾燥し細断して貯蔵すれば良いが乾燥する場合一ヶ所に積み重ねると養分の多い葉を落とすから注意を要する。
生のまま或は煮沸して与えても良いが,何れにしても安全に長期間貯蔵するのが先決条件であり,貯蔵穴の設置は是非必要で傷ついた甘藷は貯蔵せず漸次給与し,絶対に傷ついた藷,罹病した藷は避けねばならないが,生のままより都合の良いのは次の方法がある。
(イ)切干 説明する迄もなく生藷を細切して十分乾燥し,そのまま与えるか,家禽に依り粒砕する方法で他飼料との配合,給与上有利である。
(ロ)藷糠飼料
 磨砕機にかけて,これに約3割量の米糠と若干の炭酸石灰を加え混和し乾燥したもので大体大麦と同価値があると言われる。
 反当600貫の生藷から澱粉加工すれば,400貫程度の粕を得る事になる。水分を多く含むから貯蔵にはサイレージとすると,乾燥して腐敗しない様注意し,給与は初めは少量づつとし,漸次量を増して与える。
 以上から総括すると甘藷はどしどし栽培し飼料として大いに利用して戴きたい。
 最早,甘藷の育苗期に入るから飼料用としての生産計画を樹立して出発し栽培方法も甘藷と豆科植物との間,混作と言う様にし青刈大豆と農林8号との組合せも面白いと想う。
 要するに甘藷の澱粉と青刈大豆の様な蛋白等に依り自給飼料の生産確保を期して家畜を飼養すれば家畜,甘藷共に幸福である。(筆者は赤磐中部地区農業改良普及員)