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コクシジウム症はコクシジウムという原虫が鶏の腸に寄生して慢性腸炎,時とし急性出血性腸炎を起す雌の伝染病である。コクシジウムにはいろいろの種類があるが特に年々被害甚大で養鶏家に最も恐れられているのは主として盲腸に激しい急性の出血を起すEimeria
tenella(アイメリア,アテネラ)と慢性腸炎を起すEimeria necatrix(アイメリア,ネカトリックス)である。
コクシジウムは病雛の糞中に排泄されたオーシストを経口的に摂取することにより感染するもので,体外に排泄されたオーシストは自然界に長く生存し,各種の薬剤に対しても抵抗力が強く未だ完全な撲滅の方法がない。
雛に日令10日以前は発病斃死するものは少いが,通常日令20−60日頃最も多数発生し,雛が成長するに従って次第に抵抗力ができ,病勢穏和し,約90日を経過すると感染死亡するものは少くなる。この時期に於ける雛のコクシジウム症による損粍防止には,鶏舎,飼料,育雛並びに消毒等に細心の注意が拂われているが尚且つ年々被害を蒙むっている現状である。
コクシジウム症に対しての薬剤による予防並びに治療についていろいろの対策が講じられてきたが,スルファミン剤の出現以来最近本症に対するこれらの製薬殊にスルファメラジン,スルファグワニジン,スルファダイアジン等は有効であると謂われている。これらは殆ど実験的感染例に対する成績であって使用時期,副作用並びに価格等の点で広く実用に供する域に達していない。一般にコクシジウム症に対する従来の薬物による治療成績をみるに,投与中は有効であるが中止すると再び感染する。且つ感染してから2−3日後の投与,殊に発病時の投与は殆ど確実な効果を期待されない。
従って治療薬とし発病後の投与するよりも,発病前に予防薬として連続投与することによって雛の感染の危険期を脱し損耗を最小限にとどめる薬剤が要望されていた。この目的に合致する予防薬としては効果が的確であり,連続投与しても雛の生長に害がなく,しかも投与法が簡便であって,廉価であることが,養鶏家にとって最も必要な条件として挙げられていた。
このような条件をみたす薬剤は未だ見当らなかったが,最近米国に於て5−ニトロ−2−フラルデヒド,セミカルバゾーン(ナイトロフラゾーン)のコクシジウム症に対する著明な効果が発表されると共に,本邦に於てもモナフラシン(5−ニトロ−2−フラデヒド,セミカルバゾーン)についての研究の結果すぐれた効果が確認されるに至った。
動物用モナフラシンはかかる条件に最も適し養鶏家の使用に便利な薬剤として製造し本邦最初の薬剤である。
本剤は新化学的合成剤5−ニトロ−フラルデヒド,セミカルバゾーンをかき殻末,炭酸カルシウムに薄めて100倍散にした淡黄色の微粉末である。従って本剤は100g中に主薬1gを含有する。
一.本剤はコクシジウム症の予防並びに治療に比較的少量で効果がある。特に予防的に投与すると充分損耗を防止することができる。
二.本剤は有効量を飼料に混ぜて連続投与しても採食並びに雛の生長に殆ど影響がなく,体重の増加率に変化がない。
三.本剤は使用法が簡便であり且つ非常に廉価である。本剤は雛の生長に必要なカルシウム剤を含有するためカルシウムの補給としての効果もある。
コクシジウム症に対する予防並びに治療。
本剤を飼料に均一に混和することが最も大切なことであるから,あらかじめ使用量の少量づつを飼料に順次かきまぜながら加え充分混和する。次に野菜及び適当量の水を加え,更によくかきまぜてねり餌とする。実際に当っては1日分の本剤使用量と飼料とをよく混和しておき雛に日令に応じ,1日の投与回数に分け,給餌の都度野菜と水を上記のように混和する。
投与量は雛の日令に応じて異るが大体の標準は次の通りである。
| 日令 | 2週雛 | 3週雛 | 4週雛 | 5週雛 | 6週雛 | 7週雛 | 8週雛 | 9週雛 | 10週雛 | 11週雛 | 12週雛 | 13週雛 |
| 投与量 | ||||||||||||
| 100羽当り1日量 | 20g | 30g | 40g | 50g | 60g | 70g | 80g | 90g | 100g | 110g | 120g | 130g |
| 500瓦缶入匙使用 | 2杯 | 3杯 | 4杯 | 5杯 | 6杯 | 7杯 | 8杯 | 9杯 | 10杯 | 11杯 | 12杯 | 13杯 |
| 10羽当り1日量 | 2g | 3g | 4g | 5g | 6g | 7g | 8g | 9g | 10g | 11g | 12g | 13g |
| 50瓦缶入匙使用 | 2杯 | 3杯 | 4杯 | 5杯 | 6杯 | 7杯 | 8杯 | 9杯 | 10杯 | 11杯 | 12杯 | 13杯 |
500g缶に添付のアルミ製匙は一杯が約10gで,50g缶の匙は一杯が約1gである。
投興量は日令に関係なく,ねり餌の約1対90であって1.1%に相当する。この濃度によれば2週間連続投与しても殆ど雛の発育に影響がない。
イ.健康鶏群(発病鶏はみられないが感染しているか,或は感染のおそれがあるもの)に予防的に用いる場合
予防的に与える期間は孵化後10日頃から90日頃までであって,最も発病率の高いのは20−60日頃である。投与方法は大体次の何れかの方法による
(1)2日間続けて与え次に2日間休止しこれを繰り返す。
(2)3日間続けて与え次に3日間休止しこれを繰り返す。
(3)1週間続けて与え次に適当な期間休止しこれを繰り返す。この場合休止の期間は大体3日以内がよい。
杯数は添付のアルミ匙による,100羽の場合は100羽用を,10羽の場合は10羽用を使用のこと。
ロ.汚染鶏群(一羽でも発病しているもの)に予防的に用いる場合
既に発病鶏が現われてから本剤を投与する場合には直ちに鶏群に上の(3)の方法で連続投与を行う。投与後3日頃から確実な効果が現われる。この場合発病鶏は隔離するのがよい。
ハ.発病鶏に治療的に用いる場合
| 雛の日令 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |
| (1)による場合 | 3杯 | 3杯 | 3杯半 | 3杯半 | 4杯 | 4杯 | 4杯半 | 5杯 | 5杯 | 5杯半 | ||||||||||
| (2)による場合 | 3杯 | 3杯 | 3杯 | 4杯 | 4杯 | 4杯 | 4杯半 | 5杯 | 5杯 | 5杯半 | 5杯半 | |||||||||
| 雛の日令 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 |
| (1)による場合 | 6杯 | 6杯 | 6杯半 | 6杯半 | 7杯 | 7杯半 | 7杯半 | 7杯半 | 8杯 | 8杯 | ||||||||||
| (2)による場合 | 6杯 | 6杯半 | 6杯半 | 6杯半 | 7杯 | 7杯半 | 7杯半 | 8杯 | 8杯 | 8杯半 |
発病鶏の治療は連続投与を行う。初期であれば確実に効果がある。この場合モナフラシン(弊社発売の純結晶製品)を約500倍の濃度(1gを約3升の水にとかす)にうすめ飲水として与えると更に効果がある。
コクシジウム症による被害の防止に本剤を使用する場合にはイの方法が最も確実であるが,緊急な措置としてはロの方法が推奨される。ハの方法は特別な場合に用いられるが一般な使用法でない。
注意事項
本剤を飼料と混合する場合は特に均等に分布するように留意すること本剤はなるべく日光の直射を避けること。(飼料と混ずる場合,飼付の場合等)尚熱に対しては安定である
50g(函入10羽用アルミ製匙付)70.00
500g(缶入100羽用アルミ製匙付)500.00
5s(函入)4,000.00
本剤の鶏コクシジウム症に対する優れた効果に関しては第27回臨時日本獣医学会(昭和25年3月26日於大阪市)及び全国獣医師大会集談会(昭和25年3月28日於大阪市)並びに第28回獣医学会(昭和25年4月10日日於東京都)に於て初めて発表された。文献は次の通りである。
一.フラシン(モナフラシン)による実験的鶏コクシジウム症の治療に関する研究
東京大学農学部家畜衛生学教室
田中丑雄,大久保義夫,池田三義,浦川紀元
日本獣医協会雑誌第3巻第7号,昭和25年7月掲載
二.鶏コクジウム症の予防と治療法の実験的研究
日本生物科学研究所
新美大四郎,久葉昇,羽野俊一郎
日本獣医協会雑誌第3巻第7号,昭和25年7月掲載
三.鶏コクシジウム症の化学療法
農林省家畜衛生試験場 理学士 角田 清
日本獣医協会雑第3巻第5号,昭和25年5月掲載
四.鶏のコクシジウム症及び治療法
農林省家畜衛生試験場 理学士 角田 清
養鶏の日本第36巻第408号,昭和25年8月掲載
五.鶏のコクシジウム病の病理治療と予防対策
宇都宮大学教授 石黒秀雄
鶏の研究第25巻第6号,昭和25年6月掲載
六.コクシジウム症対策
鈴木 武,鈴木沢一
鶏の研究第26号,第1号昭和26年1月掲載(大日本製薬株式会社寄稿)