| ホーム>岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和26年10月号 > 米麦作に年間廏肥反当600貫施用 ―何故必要であるか― |
8月下旬に葉書で蔵知技師から10月号の畜産便りに「例の堆廏肥反当600貫施用説」を書いてほしいとの便りがあった。実はこれは7月下旬久米郡酪農大会が倭文村で開催された時私が講演したその一節を書けとの御趣旨であったのであるが其後御催促が急なので書くことにした次第である。
偶々5月中旬津山の衆楽公園で善通寺町にある中国四国の農業試験場土地利用部長の松木博士の講演を拝聴して其後同博士に御手紙を差し出してお尋ねもしたその結果以前から疑問とし居った理由が判ったから倭文村で講演の時に一寸お話したのが蔵知技師のお耳に残って居ったのがこの投稿となったので以下その時のことを再び述べることとする。
この記事を書く前に一寸我家の経営のことを述べさせて貰います。
私の家では田畑一町歩の耕作をしている農家であるが今までに色々の文献を読んだり人にも尋ねて見たが堆肥を米麦に年間600貫施せばよいということであった。そこで我家の経営には廏肥を年間最低6,000貫(反当600貫)造らなければならないと思って,乳牛1頭から1年に2,3,000貫廏肥が出来るから1頭分の生産を2,000貫と見積って,乳牛3頭飼えば必要廏肥が6,000貫出来る計算となるので,現在3頭飼って居るが,農業を始めてから8年目の昨年頃から田植に這入っても他家の堆廏肥の施用の少い田へ這入た時程足が痛くないという実感が判然しかけたので田が肥えだしたなあーと思う様になったのである。
従来稲を作るのに堆廏肥を何故,何程したらよいかという理由が判らず,只だ年間600貫施せばよいと教えられた通り施して来て別にその理由は判らず兎に角機械的に施して居ったのである。
博士の御話では稲を作るのに近来何々式と言って数多く栽培法が発表されて居るが,耕土が6寸あって腐埴質が土中に3.2以上あったら(他の必要条件を具備して居るとして)米が5石はだれでも容易に取れる,稲は古から言う通り地力で取れるもので何々式と強いて言いたかったら,稲式の何々と言って置けばよいので,稲を人間が作るのでなく稲自身が出来るので人間はその補助者に過ぎないのであって,篤農家の田の腐埴質の蓄積量は3.2以上で,昨年朝日新聞主催,農林省後援の米作日本一競作会の一等入賞者,香川県仲多度郡南村の橋本丈作氏のは,反当5石3斗6升4合でその腐埴質の蓄積は5.75で耕土は6寸である。そうしてこの栽培は松木博士の御指導によるものだそうである。
全国の田の腐埴質の蓄積の平均は2.2であって,これを3.2以上にするのには年々600貫堆廏肥を施せば,その1割の60貫が腐植として残り,これを10年継続すると600貫蓄積されて3.2に達するのである,その計算は下記の通りである。
一反歩の耕土1寸の重量は約1万貫で6寸の耕土は6万貫となるのである。
6万貫×3.2=1,920貫(篤農家の腐植の蓄積量)
6万貫×2.2=1,320貫(普通農家腐植の蓄積量)
1,920貫−1,320貫=600貫(不足)
600貫÷60貫=10年(10ヶ年間を要する)
次に下表を御覧になれば地力と技術による収量の関係がよくお判りになると思うのである。
| 耕土 | 腐植質 の蓄積 |
地力に依 る収量 |
技術に依 る収量 |
計 | 摘要 | 増収 余地 |
| 3寸 | 3.00% | 0.98石 | 1.00石 | 1.98石 | 普通栽培の場合 | 品種,栽培法等に 依り更に1石から1 石5斗増収 |
| 4 | 3 | 1.3 | 1.5 | 2.8 | 〃 | |
| 5 | 3 | 1.63 | 1.5 | 3.13 | 〃 | |
| 6 | 3 | 1.98 | 2 | 3.98 | 〃 | |
| 6 | 3.2以上 | 3.3 | 1.7 | 5 | 〃 |
以上の表で腐埴質の蓄積が3.0以下の場合は技術に依る収量の方が大であるが,3.2以上になると地力に依る増収が著大となることをお認めになると同時に,地力の培養が如何に必要であるかを御納得下さることと思うのである。又地力増進の為めに堆廏肥施用量をいくらでも多くする丈けよいではないかとお思いになるかも知れないが,一時多量に施すと土地には一定の消化力というものがあって,無暗に施すと土地が「ワク」という危険があるから,600貫を標準として実験によって具合よく限度を定むべきである。大体600貫を限度とするのが安全である尚お麦作に関しては別の機会に述べる。
地力増進上堆肥を使ってよいのであるが,齋藤博士は「堆肥は人絹で廏肥は本絹である」と言って居られる,実にその通りで廏肥を増産すべきで,このことは私が今更喋々申上げるまでもなく,畜産家の皆さんの方が先によく御存じのことと思うが,松木博士のお話に土地さえよく培養すれば米は反当9石6斗,麦は11石2斗を極限として,増産が出来るということである。これとて畜産人のみに与えられた増産権で無畜農家等では仲々困難な仕事である。
試みに久米郡の田畑の増産を目標とし反当年間600貫廏肥を施して,10年間に腐植の蓄積を3.2以上にし,食糧の増産を計るとすれば耕地,廏肥,家畜との関係を明にする為めに8月中旬本郡三保村で私が講演した時の参考表は下記の如くである。
久米郡耕地の地力増進と耕地家畜廏肥関係表
| 田畑面積 | 廏肥の施用量 | 家畜頭数 | ||||||
| 必 要 量 | 現在生産量 | 生産不足量 | 生産% | 必要頭数 | 現在頭数 | 不足頭数 | ||
| 町 反 | 貫 | 貫 | 貫 | % | 頭 | 頭 | 頭 | |
| 大井西 | 205.3 | 12,318,000 | 510,000 | 721,800 | 41 | 615.9 | 255 | 360.9 |
| 大東 | 437.1 | 2,622,600 | 884,000 | 1,738,600 | 34 | 1,311.30 | 442 | 869.3 |
| 久米 | 260.4 | 1,562,400 | 572,000 | 990,400 | 37 | 781.2 | 286 | 495.2 |
| 三保 | 277.1 | 1,662,600 | 628,000 | 1,034,600 | 38 | 831.3 | 314 | 517.3 |
| 打穴 | 287.3 | 1,723,800 | 682,000 | 1,041,800 | 40 | 861.9 | 341 | 520.9 |
| 倭文 | 620.6 | 3,723,600 | 920,000 | 2,803,600 | 25 | 1,861.80 | 460 | 1,401.80 |
| 倭文西 | 288.7 | 1,732,200 | 552,000 | 1,180,200 | 32 | 866.1 | 276 | 590.1 |
| 西川 | 253 | 1,518,000 | 508,000 | 1,010,000 | 34 | 759 | 254 | 505 |
| 垪和 | 265.5 | 1,593,000 | 584,000 | 1,009,000 | 37 | 796.5 | 292 | 504.5 |
| 大垪和 | 420 | 2,520,000 | 782,000 | 1,738,000 | 31 | 1,260.00 | 391 | 869 |
| 鶴田 | 302.6 | 1,815,600 | 52,000 | 1,295,600 | 29 | 907.8 | 260 | 647.8 |
| 弓削 | 517.1 | 3,102,600 | 1,140,000 | 1,962,600 | 37 | 1,551.30 | 570 | 981.3 |
| 吉岡 | 273.7 | 1,642,200 | 608,000 | 1,034,200 | 37 | 821.1 | 304 | 517.1 |
| 加美 | 539.6 | 3,237,600 | 1,060,000 | 2,177,600 | 33 | 1,618.80 | 530 | 1,088.80 |
| 福岡南 | 326.3 | 1,957,800 | 726,000 | 1,231,800 | 37 | 978.9 | 363 | 615.9 |
| 竜山 | 256.8 | 1,540,800 | 454,000 | 1,086,800 | 34 | 770.4 | 227 | 543.4 |
| 福渡 | 204.4 | 1,226,400 | 418,000 | 808,400 | 34 | 613.2 | 209 | 404.2 |
| 神目 | 306 | 1,836,000 | 750,000 | 1,086,000 | 41 | 918 | 375 | 543 |
| 計 | 6,041.50 | 36,249,000 | 12,298,000 | 23,951,000 | 34 | 18,124.50 | 6,149 | 11,975.50 |
備考
一.田畑の面積単位反
二.廏肥反当施用量600貫
三.大家畜1ヵ年間廏肥の生量費2千貫
四.家畜の頭数は家畜単価の頭数
以上の表で廏肥の生産量が意外に少く又従来耕地5反でも1町でも1町5反でも一様に和牛1頭飼うことは,これは一種の副業的慣行で,今後は土地を肥やすに足る家畜を飼うべきで,耕耘に於ても県下で機械化の出来る地方は別として,大部分の山間地は畜力利用に徹底すべきで,又廏肥の現在量は寔に過少であるから,之れを増産して反当米5石を取れば,2千万石の輸入も防ぐことが出来る。同時に又作物の増産と共に田畑の巧妙な利用によって飼料を増産すべきで,之れと平行して山野を最高度に活用して,良質の飼料を増産することが急務中の急務であることを力説したいのである。偶然の出来事ではあるが先輩から教えられた通り,吾が家の家畜を耕地1町歩に3頭振り当てて居ったことは,松木博士の御説に一致する結果となったことは,寔に仕合せで御指導に預った先輩諸彦に感謝の意を表する次第である。(終り)