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まえがき
第一節 農業経営の立地条件
一.自然的条件
二.経済的条件
第二節 農業経営育成上の欠陥と改善策
第三節 農業経営育成の目標
日本原開拓地は岡山県勝田郡北吉野村にあり,一部分が新野村に跨り,那岐山(1,240m)滝山(1,197m)及び瓜ヶ城山(1,076m)の三連峯の南面緩傾斜地(30分の1乃至40分の1勾配)を占め,全面積147町歩にして,元陸軍演習地2,083町歩のうちの7%に当る。標高は220m乃至250m土壌は第三紀火山灰質腐植土から成り,地味瘠薄にして草生不良である。21年度入植者93戸のうち離脱者5戸を除き,現在は滝本地区に53戸,新野地区に35戸,計88戸が定着して疎居式集団農場制村落を形成している。
立地条件を自然的条件と経済的社会的条件とに大別して概要を述べれば次の如くである。
1.年間平均気温は13度乃至14度最低極気温マイナス10度(1月)にして,蒜山原開拓地(標高500m乃至700m)よりも平均気温に於いて2度高く,最低気温に於いてマイナス15度だけ低くなっている。最低極気温が蒜山原に比してマイナス15度も低いということは冬作及び果樹類の栽培にとって有利である。
2.無霜期間は5月4日から10月28日に至る178日間にして蒜山原の166日間に比すれば12日だけ長い。故にここでは二毛作が充分に可能である。例えば甘藷の跡地に小麦が作付けられる如きである。(蒜山原は一毛作)
3.年降水量は1,700oにして蒜山原の1,907oに比すれば約200o位少ない。その季節的分布をみるに降雨量の最大なるは7月にして5月がこれに次ぐこと蒜山原に於けると略同様であるが,10月の収穫期には雨が少ないので蒜山原に於ける如く多雨の被害を受けることは稀である。10月以降に晴天が続くので,陸稲,大豆,玉蜀黍の収穫調製作業を容易ならしめ,6月の寡雨は時に陸稲の旱害を招く危険があるけれども麦,菜種,馬鈴薯等の収穫には好都合である。又冬期も積雪が少ないので冬作の麦や菜種等の栽培には有利である。この点は蒜山原に於いて10月の収穫期が多雨になやまされ,5月の多雨が麦類の収穫に禍いし,冬期の積雪が冬作を困難ならしめるのとは著しい相違である。
気象概況表
事項 | 日本原 | 蒜山原 |
年平均気温 | 13度−14度 | 12度 |
最低極気温 | (-)10度(1月) | (-)25度 |
初霜期 | 10月29日 | 10月15日 |
晩霜期 | 5月3日 | 5月3日 |
無霜期間 | 178日 | 166日 |
降水量 | 1,700o | 1,907o |
備考 日本原は小中原,行方観測所の観測値より。
蒜山原は上長田観測所(自昭和14年−至同23年)
(岡大農学部,岡山県蒜山原開拓地綜合調査報告)
昭和26年4月刊による。
主要作物の播種期及収穫期
作物名 | 播種期 | 収穫期 |
陸稲 | 5月上旬 | 10月上旬 |
小麦 | 10月下旬 | 6月中旬 |
裸麦 | 10月下旬 | 6月上旬 |
大豆 | 5月中旬 | 10月下旬 |
小豆 | 6月中旬 | 10月中旬 |
豌豆 | 10月中旬 | 6月上旬 |
甘藷 | 6月上中下旬(植付) | 10月上中下旬 |
馬鈴薯 | 3月下旬 | 6月下旬 |
大根 | 8月下旬 | 11月中旬 |
菜種 | 10月下旬(植付) | 6月中下旬 |
4.土壌は火山灰質腐植土から成り,酸性を呈し(PH5度乃至5.6度)地味瘠薄にして特に燐酸分の欠乏が顕著である。例えば,燐酸吸収系数は2,600乃至,4,000内外を示す如きである。最近施肥量の増加と共に作物の反当収量は逐年増加の傾向を示しているが,昭和24年の反当収量を見るに陸稲が8斗,小麦が1石,裸麦が8斗,大豆が8斗,甘藷が400貫,馬鈴薯250貫,大根1,300貫等にして蒜山原に於けると大同小異である。然し根菜作物は増収傾向が顕著である。
主要作物の反当収量
作物 | 日本原 | 蒜山原 | |
22年 | 24年 | 24年 | |
石 | 石 | 石 石 | |
陸稲 | 0.55 | 0.8 | 0.8−1.0 |
小麦 | 0.3 | 1 | 0.8 |
裸麦 | 0.25 | 0.8 | |
ライ麦 | 1 | ||
大豆 | 0.2貫 | 0.8貫 | 0.6−0.8貫 |
甘藷 | 200 | 400 | 250 |
馬鈴薯 | 90 | 250 | |
大根 | 110 | 1,300 |
経済的社会的条件のうちで特に考慮を要するものは次の如し。
1.市場との関係を見るに開拓地の北境界線に沿って国道が東西に走り,津山市に至る約15qは平坦にしてバスやトラックの便があり,その略中間に位する因美線高野駅を利用すれば岡山市や鳥取市も直行が出来る。牛乳はこの地域が岡山県北部酪農協同組合の集乳区域に属している関係から組合トラックによって東津山駅前の酪農工場へ運ばれる。日本原から南下すること10qにして姫新線勝間田駅に出て阪神市場を利用することも可能である。開拓地区に隣接している旧来の日本原密居村部落には広戸村の役場,小学校,農業協同組合等の外に,郵便局やバス停留所もある。これを蒜山原が姫新線勝山駅までの国道41q,起伏の多い国道を倉吉線関金駅へ出ても7.5qにして,冬期は積雪の為に交通杜絶することすら稀でないのに較ぶれば比較的良い交通地位の部に属するであろう。
2.入植定着農家88戸を前職種別に分類すれば,農業は僅か17戸にして,工業が24戸,商業が12戸,公務自由業が12戸,職業軍人が10戸,其他13戸を数え81%迄が農業未経験者である。農業従事者は209人を数え,総人口404人の50%強に当る。入植者は大部分が農業未験者だったので当初は農耕作業が極めて素朴幼稚であったが研究心に富み新技術の採用に熱心な為に今では普通農民以上の技術を体得している。
農業の未経験者であるということは却って新技術の採用や新農法の導入を早からしめたものと解される。彼等は一般に知識水準が高く且つ妻帯者(平均年令35才)にして家族労働力が比較的多かった為に(可動力は全人口の50%にして,全国農家5,112戸平均の可動力45%よりも5%だけ多い)村の建設や住居建築,開墾,営農等も比較的よく計画的に進捗し生活も早く安定した。従って離脱者も非常に少なく僅か5戸を出したのみであるから,これを蒜山原開拓村に於いて入植者190戸のうち離脱者46戸を出したのに比すれば非常によい定着率とは言わねばならない。
3.村落形成及び農場制を見るに疎居式集団農場制を採用し平均1戸当可墾地,1町2反2畝歩が屋敷地8畝歩の周囲に集められ,既墾地は25年末に於いて9反歩に及んでいる。この外に共有薪炭林11町4反1畝歩があり1戸につき1反3畝歩に当る。これを蒜山原の開拓村が疎居式分散農場制を採用して1戸当宅地1反歩,可墾地3町歩が3ヶ所位に散在し,共有地として1戸当草地1町歩及び林地2町歩(共有地は地元農家と共同利用)を有するのに比すれば,面積的には著しく狭少である。然し日本原開拓村は疎居式集団農場制の採用によって,割当耕地を充分集約的に利用して主畜式畑作輪栽経営を可能ならしめる条件を整備した事によって土地面積の狭少と言う欠陥を補い得るものと考えられる。
現在の農業経営に内在する欠陥を指摘し,これが改善策について述べる。
主要作物の作付比率を見るに地力消耗性の禾本科作物が64%,地力保護的性質の根菜作物が26%にして地力増進性の荳科作物は僅か10%に過ぎない。即ち次表の如し。
主要作物作付状況(昭和25年)
作物名 | 作付面積 | 作付比率 | |
反 | % | ||
禾本科作類 | 陸稲 | 21.1 | |
麦類 | 33.3 | ||
雑穀類 | 1.5 | ||
計 | 55.5 | 63.9 | |
荳 作 類 | 大小豆 | 8.9 | |
其他 | ― | ||
計 | 8.9 | 10.2 | |
根菜作類 | 甘藷 | 18 | |
馬鈴薯 | 4.5 | ||
其他 | ― | ||
計 | 22.5 | 25.9 | |
合計 | 86.9 | 100 |
即ち地力消耗性の禾本科作物の作付比率が3分の2近くを占めているので,地力は消耗し,雑草や病害虫が増加し,飼料の自給も困難な実情である。されば禾本科作物を若干減らし荳科作物と根菜作物を適当に組合せて,これ等3群の作物を交代的に栽培する様に輪作組織の合理化をはからねばならない。禾本科作物としては陸稲作をなるべく縮少して飯米自給程度にとどめ,飼料用の玉蜀黍その他の禾草類を増加するのが得策であろう。荳科作物としては大豆の外に飼料用の落花生,蚕豆,ザートウイッケンその他の荳草類の導入を試みる必要がある。根菜作物としては甘藷を第一とし馬鈴薯,大根,蕪菁,菜種等が推奨されるであろう。次に若干の輪栽式(試案)を例示して参考に供する。
(1)甘藷(食用飼料・加工原料)−麦類(青刈及び採実)−大豆(青刈及び採実)−菜種(青刈及び採実)
(2)甘藷−菜種−玉蜀黍(青刈及び採実)−ザードウイッケン,燕麦又はライ麦混播
(3)甘藷−麦類−落花生(飼料用)−根菜類(飼料用)
(4)陸稲(自家飯米)−馬鈴薯−甘藷−燕麦−大豆−菜種
農家1戸当家畜頭数は,和牛0.46,乳牛0.4,馬0.1,豚0.61,山羊0.6,兎0.61,鶏7.4,家鴨0.1にして,その数量並に家畜構成の用畜比率(高度比率とも称し得るであろう)に於いて蒜山原開拓村や地元農村を凌駕している。例えば1戸当家畜単位を見るに日本原の1.2は蒜山原の0.64及び北吉野村の0.99を凌駕し,用畜比率(高度比率)に於いては日本原の55%は蒜山原の22%,北吉野村の13%を遥かに抜いている。次表の如し。
家畜名 | 日本原 (26年) | 蒜山原 (24年) | 北吉野 (24年) | ||||||
数 量 | 1戸当数量 (88戸平均) |
1戸当 家畜単位 |
数 量 | 1戸当数量 (183戸平均) |
1戸当 家畜単位 |
数 量 | 1戸当数量 (556戸平均) |
1戸当 家畜単位 |
|
乳牛 | 35 | 0.4 | 0.4 | 3 | 0.02 | 0.02 | 36 | 0.06 | 0.06 |
和牛 | 41 | 0.46 | 0.46 | 58 | 0.38 | 0.38 | 438 | 0.78 | 0.78 |
馬 | 7 | 0.08 | 0.08 | 14 | 0.09 | 0.09 | 45 | 0.08 | 0.08 |
豚 | 54 | 0.61 | 0.12 | 18 | 0.12 | 0.05 | 9 | 0.02 | ― |
緬羊 | ― | ― | ― | 5 | 0.03 | ― | 8 | 0.01 | ― |
山羊 | 52 | 0.6 | 0.06 | 63 | 0.41 | 0.04 | 149 | 0.26 | 0.03 |
兎 | 53 | 0.61 | 0.01 | 246 | 1.61 | 0.03 | 417 | 0.75 | 0.01 |
鶏 | 651 | 7.4 | 0.07 | 386 | 2.52 | 0.03 | 1,643 | 2.95 | 0.03 |
家鴨 | 6 | 0.07 | ― | 12 | 0.02 | ― | 4 | 0.03 | ― |
家畜単位数 | 1.2 | 0.64 | 0.99 | ||||||
用畜比率 | 55% | 22% | 13% |
備考 家畜単位数は牛馬は各1頭,豚は5頭,緬羊は5頭,鶏,鴨は各100羽を以て1単位として計算した。用畜比率とは,役畜即ち和牛
及び馬を除きたる家畜単位(即用畜単位数)の,総家畜単位数に対する百分比。日本原は26年,蒜山原及び北吉野は24年の統計数字
であるから正確な比較にはならないが,参考のために掲げた。
然し日本原開拓農家は目下建設の途上にあり開墾進度も75%に過ぎないのであるから,完成時を想定するならば,家畜はまだ不足し用畜比率も充分でない。完成時に於いては1戸当少なくとも乳牛2頭,和牛1頭,母豚2頭,鶏20羽,即ち家畜単位3.6,用畜比率90%位を目標として家畜を整備する必要がある。かくすれば現在農業粗収益の24%程度に過ぎない家畜収益が将来は農業粗収益の大部分を占めるに至るので,畑作物大部分が飼料作化せざるを得ないのである。
現在は飼料が足りない為に,飼料の購入額は非常に多額に昇っている。例えば代表的農家8戸の平均に於いて1戸当飼料購入額は1万7,875円に達し,現金支出経営費の18.5%を占めている。故に飼料作物の導入によって飼料の自給促進をはからねばならない。飼料作物として有望視されるものを列挙すれば次の如くである。先ず荳草類としては,大豆,落花生,蚕豆,ザートウイッケン,クローバー等が挙げられ,次に禾草類としては玉蜀黍を主とし燕麦,ライ麦稗等があり,第3に根菜類としては甘藷を首位に置き馬鈴薯,大根,蕪菁,レープ等が適当であろう。
現在加工施設として澱粉工場,搾油,精米,精麦,製粉,製パン等の設備を有するが,村内乳牛35頭から搾られる牛乳処理所がまだないのは大きな欠陥である。その為に牛乳は毎日缶に詰めて15qの道を東津山酪農工場までトラックで輸送され,1升43円の牛乳に対し凡そ5円の運賃がかかり,輸送途中変質すれば乳価も引下げられる実状である。また脱脂乳の還元を受ける農家は,1升につき12.3円の高い代価を支払わざるを得ないのである。ここに於いて牛乳処理所を滝本地区及び新野地区に各1ヶ所宛設置するならば,組合員の持参した牛乳を直にクリーム・セパレーターにかけて遊離した脂肪(3.2%位)のみを酪農工場に送り,脱脂乳は組合員に還元して豚や鶏を飼わしめることが出来るので非常に有利である。蓋し蛋白質を多量に含む脱脂乳をいも類その他の飼料に添加して与えるならば豚は急速に肥満し,鶏の産卵能力は著しく高められるからである。かくして乳牛と豚と鶏は不可分の家畜構成に於いて相互に生産費を節減し家畜収益の増加に寄与すると共に良質厩肥の増産によって地力増進に役立つ効果も多大である。
農業経営に於ける肥料消費部門を構成する禾本科作物は64%,根菜作物は26%にして計90%に達しているが,肥料供給部門を構成する荳科作物は僅かに10%であり,家畜も1町歩当凡そ1単位に過ぎないので,地力消耗の傾向が顕著である。故に地力の消耗を補うために,金肥の使用額が非常に多額に上るのである。代表的農家8戸の平均に於いて1戸当金肥購入額は3万4,973円に達し,現金支出経営費中の最大費目をなし36%を占めている。殊に最近は甘藷,馬鈴薯,大根,玉蜀黍等の所謂多肥増収作物が増加したので,金肥施用額は益々増加の傾向を示し,遂には金肥過用の弊害すらも認められる現状である。故にこれ等の多肥増収作物を低廉に増産する為には,これ等を飼料として各種の用畜例えば乳牛,豚,鶏等を増加し良質厩肥の増産を企図する必要がある。幸にもこれ等の作物は自給肥料による増産可能性の最大なるものであり,作柄も安定していて用畜飼料として好適している。かくしてこれ等の作物と家畜は相互因果の関係に於いて増産を促進するという循環的増産関係が成立する。
入植者はまだ米飯偏食習慣から蝉脱し得ないので地力消耗性の危険作物である陸稲を多く栽培し尚不足米を多量に購入して生活している。即ち1戸当り陸稲作は2反歩以上にして飯米購入支出は1万6,311円に達している。又食物構成を見るに,炭水化物に偏していて蛋白質や脂肪が欠乏し,量的には過食,質的には栄養失調的状態のものが少なくない様である。故に水田に恵まれない日本原開拓地に於いては,農民は畑地の適産物を主食としこれに畜産物を適当に配合して,米麦よりも美味にして栄養分に富んだ食物を廉価に食べて生活安定を企図する必要がある。例えば自家生産のパン類,麺類,馬鈴薯,甘藷,玉蜀黍等に自給の牛乳,バター,肉,卵等を適当に組合せて各種の栄養に富んだ食品を調理し,これを美味しく食べる如きである。
かくして従来の米飯偏食習慣から蝉脱して新しい雑食習慣へ移行するならば,農業も亦旧来の米麦主穀式から解放されて新しい輪栽式有畜経営への前進速度を早める事が出来るのである。蓋しこれは欧米先進諸国に於ける畑作農業発達史及び食生活変遷史の数うる所であり,我が国の開拓地のみが例外をなすものとは考えられないからである。前述の如き雑食習慣生活に於いては,禾穀類や根菜類と共に各種畜産物の調達を不可欠の要件とし,販売生産は畜産物に重点が指向されるので,交通不便な畑作地の農業は輪栽式有畜経営へ進むのが自然の道行である。
その主なるものを列挙すれば次の如くである。
(1)農地配分に於いて,集団農場制原則が地域的には歪められて分散農場制の採用された部落がある。例えば那岐組12戸の中8戸,美濃里組12戸の内6戸,美和組及び美吉組に於いても若干の分散農場が数えられる。これ等の分散農場は適当な機会に於いて交換分合を実施し,集団農場に切替えて,必要に応じ屋敷の移転をも断行するのが将来の為であると考えられる。また入植当初に於いては風をおそたので,農家屋敷を風当りの弱い斜面低地に多く配置し過ぎた傾向も認められる。然し農家屋敷は,耕地経営に便利にして日常生活にも都合の良い場所に設けて,風は防風林や宅地林を以って防止するのが適当であろう。
(2)防風林は主風の方向に直角に長く設定するのを原則とするが現在の幼令防風林のうちには斜になっていて,防風的効果の疑わしいものもあった様である。かくの如き固定的永年計画に於いて,若し不合理な部分があるならばこれは放置し難い問題であることを指摘して置き度い。
(3)農道の巾は概ね2m位にとってあるが,将来大型の馬車やトラックやオート三輪車等を走らせることを予想するならば,狭きに失する嫌があるので,3m巾位に拡張して置く必要がある。
これ等3つの改善事項は基本計画の一部変更であって,目前焦眉の問題としてはまだ痛感されていないが,これが対策は時日の経過するに経って実行困難となる性質のものであるから,今に於いて充分慎重に研究し開拓村将来100年の大計にあやまちなきを期さねばならない。
以上これを要するに日本原開拓村は蒜山原開拓村に於けると同様,疎居式集団農場制の立地にして,農業経営の目標は畑作輪栽式有畜農業の確立でなければならない。而して疎居式集団農場制は略基礎が出来,道路網も概ね整備された状態である。開拓民は昭和21年入植以来堅実な足取りを以て当初の主穀式経営から脱して輪栽式有畜経営の方向へ前進を続けている。農家の食習慣も旧来の米飯偏食から次第に栄養的雑食習慣と漸次移行しつつあるから,輪栽式有畜経営の発展を束縛する様なことはないであろう。また開拓農業協同組合の活動や各種加工施設の完備は,輪栽式有畜経営の発展に拍車を加えている。然し開拓農民をして疎居式集団農場制の新しい村落に定着安住せしめ,輪栽式有畜経営に専念せしめる為には,疎居式文化の導入が不可欠の要件であることを忘れてはならない。例えば道路網を整備し,交通機関を普及せしめ,電燈,電話,電力線等を架設し各種文化施設を分散配置すると共に,新聞雑誌,書籍類の廉価配給を企図する如きである。かくして疎居式集団農場制の開拓村が,密居式分散農場制の既成村落に隣接して新に誕生し,従来の水田作主穀式無畜経営から解放された畑作輪栽式有畜経営が新に発展するであろう。(昭和27年7月4日)
拙稿・蒜山原開拓地農業経営の育成目標(昭和26年4月,岡山大学農学部,岡山県蒜山原開拓地綜合調査報告)を御参照願います。
(筆者は岡山大学農学部長)