ホーム>岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和27年9月号 > 抗生物質(バシトラシン製剤)の雛に対する効用試験 |
最近我が国に於ても抗生剤が雛に対して急速な成長を促進し,疾病に対する抵抗力を著しく増進させる事実が関係各方面に於て立証されたことは養鶏が発展上誠に喜ぶべきことであるが,これらの試験結果を詳細に検討すると,これが実用化には尚若干再考察せねばならない余地があると認められるものがあるから本試験は可及的多数の雛を供用すること対照区(抗生物質を添付しない区)に於ても常に,標準発育を継続することを条件として設計し,抗生物質の実用的価値を改め再確認してこれが普及に資せしめたい為に本試験を実施した。
本試験には当場生産の単冠白色レグホーン種種雛400羽(昭和27年3月19日孵化)を用い雌雛160羽,雄雛40羽計200羽宛を試験区と対照区に別けた。試験期間は50日間(自昭和27年3月21日至〃5月9日)であるが発育状況に関し他の研究成績と比較する為,10日間試験を延長し餌付後60日目における1羽平均体重を秤量した。
供試した抗生物質は米国USI会社の製品である抗生物質飼料添加剤(一封度中バシトラシンの結晶相当量5g含有が保証されている)であって試験区配合飼料1,000s当本剤を2封度の割合で混合した。
給与飼料と給与量は次表の通りであるが,供試雛は対照区のものでも将来当場種鶏として供用せねばならないので,飼付後50日目に於ける1羽平均体重は雄雛において500g雌雛においては450g以上に達せしめなければならない計画で飼料を配合したから試験区と対照区飼料中の可消化蛋白質含有量の差は餌付後21日目より試験区に於ては大豆粕を対照区においては,魚粉を夫々10%を増加した関係上比較的に僅少であるので試験区においては従来の発表された内外の試験成績から見てより以上に発育が増進せられることを予想し
た。
即ち本試験は抗生物質の添加により育雛飼料最も高価である魚粉を大豆粕で置換し飼料費の節減を図ると共に育雛成績の向上にあることに焦点が置かれた。
飼料配合割合及給興量
(イ)試験区配合飼料(%)
区分 | 1羽1日 給 与 量 |
玉蜀黍 | 屑麦 | 小米 | 麩 | 脱脂糠 | 大豆粕 | 魚粉 | 食塩 | コロイカル |
g | ||||||||||
第1日−第5日 | 4 | 40 | 20 | 40 | ― | ― | ― | ― | 0.2 | 2 |
第6日−第10日 | 10 | 30 | 15 | 30 | 10 | 10 | ― | 5 | 0.2 | 2 |
第11日−第20日 | 17 | 20 | 20 | 20 | 10 | 15 | 5 | 10 | 0.2 | 2 |
第21日−第30日 | 26 | 25 | 15 | 10 | 10 | 15 | 15 | 10 | 0.2 | 2 |
第31日−第40日 | 32 | |||||||||
第41日−第50日 | 45 | |||||||||
第51日−第60日 | 60 | 25 | 25 | ― | 10 | 15 | 15 | 10 | 0.2 | 2 |
(ロ)対照区配合飼料(%)
区分 | 1羽1日 給与量 |
玉蜀黍 | 屑麦 | 小米 | 麩 | 脱脂糠 | 大豆粕 | 魚粉 | 食塩 | コロイカル |
g | ||||||||||
第1日−第5日 | 4 | 40 | 20 | 40 | ― | ― | ― | ― | 0.2 | 2 |
第6日−第10日 | 10 | 30 | 15 | 30 | 10 | 10 | ― | 5 | 0.2 | 2 |
第11日−第20日 | 17 | 20 | 20 | 20 | 10 | 15 | 5 | 10 | 0.2 | 2 |
第21日−第30日 | 26 | 25 | 15 | 10 | 10 | 15 | 5 | 20 | 0.2 | 2 |
第31日−第40日 | 32 | |||||||||
第41日−第50日 | 45 | |||||||||
第51日−第60日 | 60 | 25 | 25 | ― | 10 | 15 | 5 | 20 | 0.2 | 2 |
供試雛は約4坪の育雛室に箱型電熱温床育雛器1台を設置し1室160羽2室を使用し緑餌及び清水は充分に給与した。
(イ)発育成績(1羽平均体重g)
区 別 | 性別 | 入雛時 | 第10日目 | 第20日目 | 第30日目 | 第40日目 | 修 了 時 (第 50 日 目) | 第60日目 | |||
最 高 | 最 低 | 平 均 | 増加指数 | ||||||||
試験区 | 雌 | 34.1 | 56.5 | 12.1 | 200.2 | 326.3 | 630 | 220 | 434.6 | 127 | 545 |
対照区 | 雌 | 34.2 | 53.8 | 108.2 | 202.9 | 324.8 | 690 | 200 | 463.4 | 135 | 574.1 |
備考 一.修了時及び第60日目に於ける数値は別表育成成績表に於ける不適格(種中雛として軽量に過ぎるもの)のものをも含んだものである。
一.体重の測定は餌付時及び修了時に於ては個体別に秤量し其の他は一括秤量した。
(ロ)修了時に於ける発育区分の状況
区別 | 300g以下 | 自310g 至350g |
自360g 至400g |
自410g 至450g |
460g以上 | 合計 | |
試験区 | 実習 | 15羽 | 7羽 | 19羽 | 43羽 | 68羽 | 152羽 |
% | 10 | 4 | 12.5 | 28.5 | 45 | 100 | |
対照区 | 実習 | 5羽 | 8羽 | 16羽 | 29羽 | 85羽 | 143羽 |
% | 305 | 5.6 | 11.2 | 20.3 | 59.4 | 100 |
(ハ)育成成績
区別 | 性別 | 餌付羽数 | 斃死淘汰羽数 | 修了時 | 育成率 | ||
淘汰 | 斃死 | 不適格 | 適格羽数 | ||||
羽 | % | ||||||
試験区 | 雌 | 160 | 2 | 6 | 15 | 137 | 86 |
対照区 | 雌 | 160 | 1 | 16 | 5 | 138 | 86.2 |
備考 一.淘汰とは全く虚弱で発育の見込のないものである。
二.不適格とは修了時に於て体重300g以下のもので種中雛として適格でないものを淘汰したものである。
三.餌付後第5日目以降に於て試験区の雌1羽斃死した以外には減数なし。
備考 斃死及淘汰雛は全部剖検して見たが,大部分は卵黄不消化肺充血腸カタール若はこれらの合併症によるものであった。
従来発表されている抗生物質の雛に対する効用試験の設計を見ると次の2つの型に分類される。
(一)給与すべき飼料成分は全然同一であるが,抗生物質の添加量を変化せしめているか若しく添加不添加によってこれが効果を試験している。
(二)給与すべき飼料は其の成分即ち含有蛋白質の量と質に相違があって,抗生物質は同一量を添加しているか若は添加不添加によってこれが試験している即ち本試験は(二)に属しているが前述の様に実用化試験であって,供試羽数が相当多数で試験後半期より育雛器の床面並びに,育雛室床面積が収容羽数に比し,稍々狭少で飼養管理に万全を期し得なかったこと,バシトラシン製剤使用について予備知識が乏しかった事で本試験の結果によってバシトラシン製剤の効果を論断し得ないが,両区共発育状況は種雛として略標準に達しているので次の如く推論し得る。
(一)餌付後20日間に於ける試験区供試雛は体躯の緊実附蹠骨の発達羽毛発生の速度等一見して対区照に比し優っていたが,これは上期間内は両区共同一飼料を給与していたので,明に本製剤の生長促進効果によるものと認め得られる。
(二)両区に於ける魚粉大豆粕の配合割合の相違と体重発育の相違とを併わせて考察すると,本製剤は蛋白質の代位的作用のあることは認め得られる。
(三)本製剤の疾病に対する抵抗性の増進は,試験期間中特記すべき環境の不良もなくコクシジューム症の如き伝染病の発生を生じなかったので,確認は出来ないが抗病力を増進せしめる効果のあることは認め得られる。