| ホーム > 岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和30年7月号 > 岡山県種畜場講座 乳牛の飼い方(10) | 

C.削蹄
 乳牛を殊に長い冬の間牛舎の中に繋留し,或は放牧に出していても土地が湿潤で硬くない時は,蹄がのび歩行や起立に故障を生じ,又起立に際し蹄先で乳頭を踏み大傷を蒙ることが較々ある。種雄牛は種付に際し全体重を後蹄に托して駆け乗りするため,常に蹄
は整えておくことが必要である。
 これがために蹄を削蹄刀,煎鉗,鑪等で整美するのであるが,乳牛は和牛ほど厳密に削蹄の基本的な点に留意する必要はないにしても,肢勢,蹄形に応じた削蹄,所謂削蹄判断をして何の部分に重点をおいて削るかを考慮しなければならない。
1.削蹄の回数と時期
乳牛は蹄の過長によって削蹄すればよいのであるが,生後初めての削蹄は6-7ヵ月令で行う。当才-2才では年3-4回,3才では3回,それ以後は2-3回が適当である(削蹄道具は筆者の経験では苫田郡奥津村横山正秀作製が性能が良いよう思われた。)
2.蹄の堅軟と削蹄の前処置
 牛により蹄の硬軟があり,これは品種,年令,系統,個体,飼養管理によって異る。糞尿に汚染した牛房におる牛は軟弱であり,スタンチョンの様な堅い床の上で飼われた牛の蹄は堅い。又堅い土地で良く運動された牛はそうでないものより蹄が堅い。
 仔牛の蹄や,柔かい蹄はいきなり削蹄してもよいが,硬い蹄の場合は,削蹄に先だって1-2時間水の中へ立たせて蹄を軟らかくしてから削蹄したい。
3.各種蹄形及び肢勢の削蹄要領
(イ)正肢勢で正状な蹄の削り方
 内外蹄の接地面が同じになるように,大体平均に削り,蹄底の中央部を僅かに凹陥状に切る。どちらかといえば蹄踵部を余り削らず蹄先部を多く削る気持で切る。
(ロ)外向肢勢の蹄の削り方
 外向肢勢では内蹄踵に多くの体重がかかるので,この部がよく発達して高く大きくなっている。それ故内蹄踵を多く削って低くし,それによって外蹄踵えも体重がかかるようにして,この部の発育を促すようにする。具体的にいうと内蹄は蹄踵から側壁へかけて内傾斜に削り外蹄は側壁から蹄先部へかけて削り外蹄踵をなるべく削らないで保護するようにする。
(ハ)広踏肢勢の蹄の削り方
広踏肢勢では体重が多く内蹄へかかっているので,内蹄がよく発達し,外蹄は小さいのが普通である。それ故内蹄を多く削り,外蹄を保護するようにする。
(ニ)狭踏肢勢の蹄の削り方
 狭踏肢勢では多く外蹄が厚くなっているから外蹄を多く内蹄を少く削る。
(ホ)曲飛の牛の削蹄方法
 曲飛というのは,飛節の角度が深すぎているものである。この場合には後肢の蹄先を切り蹄踵を削らないようにして,なるべく蹄が立つようにする。又この飛節を矯正するためには,繋留の際に前肢が後肢よりも約5-6㎝の高い処へ立つようにする。
(ヘ)直飛の牛の削蹄方法
(ホ)の反対の飛節を直飛という。従ってその削蹄方法も,(ホ)の場合と反対に後肢の蹄踵を多く削り蹄先を余り切らないようにして,蹄がねるようにする。
(ト)平蹄の削り方
 薄く臥て長く伸びた蹄である。蹄先部を多く,蹄踵部を少く削って蹄が立つようにする。そして蹄底中央部を凹陥状に削って,所謂土抜きをよくする。鎌で切った後で,側壁下縁をヤスリで磨いて,いわゆる蹄廻しをよくする。総体的に接地面を少くするよう仕上げる。
(チ)立蹄の削り方
(ト)と全く逆に削る
(リ)広蹄の削り方
 土抜きを多くとり,側壁下縁をも切込んで接地面を少くする。
(ヌ)狭窄蹄の削り方
 側壁の捲込みを削除し,蹄踵部を削り,蹄底を平かにして,土抜きを作らず,できるだけ接地面を多くする。
(ル)開き蹄の削り方
  開き蹄というのは,内外蹄の間が開いた蹄である。蹄底中央部の土抜きを充分に作り,体重が内外蹄の外縁に多くかかるようにする。又蹄踵を保護してやや立気味にする。この時は多く繋の弱いものにでき易いからで,急傾斜の放牧場で放った場合にも開き蹄になるが,舎飼により大抵治る。
(オ)狭蹄の削り方
 内側の向った蹄先を切ると共に,蹄踵をも削り,蹄底は土抜きを作らないで平らに切る。即ち接地面を大いにして蹄質部の発達を図る。
(ワ)親子蹄の削り方
 親子蹄は,内外蹄の大きさ不同のもので,これは親蹄の蹄踵部,蹄先部を多く削り,土抜きを充分にとる。子蹄は余り削らないで殊に土抜きを作らないで接地面を多くする。負重の大なる蹄の蹄が親蹄になるのであって,その底が団子のように丸くなっていることがある。勿論このような異常発達部は切りとる。
(カ)蹄喰いのある蹄の削り方
 蹄喰い又は「ツマブ」又は「ツマネ」といって蹄冠に骨瘤のある蹄がある。それは大抵立蹄で,蹄の発育が悪く容積が小さい。蹄踵部殊に内蹄踵を多く削って,蹄を低くすると共に,土抜きを充分にして蹄がよく割れるようにしたがよい。蹄先は余り切らないようにする。
(ヨ)内蹄高く外蹄先の磨り切れた蹄の削り方
 これは比較的多く見うけられる蹄である。外向肢勢の場合にも多くこのような蹄になる。内蹄踵を削って外蹄踵と同じ厚さにし,内蹄の土抜きを充分にとる。外は余り削らないで,なるべく伸びるようにしむける。
 乳牛の平均妊娠期間は280日-285日といわれる。ホルスタイン種は平均281日前後が多いようである。オス仔牛分娩の場合はメス仔牛より,1-3日長くかかるものである。一般に種付日から起算し分娩月日を算定するため下の簡便法を用いる。
 即ち種付月日の月の数から3を減じ日の数に6を加えれば分娩月日が決る。例えば種付月日が6月20日とすれば,月の6から3を減き3となる。又日の20に6を加えるから26となる。従って分娩予定月日は,翌年の,3月26日となる訳で種付月が1,2,3,月の様に3を減ぜられない月は9を加えればよい。
 又分娩後始めて現われる発情は,早いものでは,1週間位から起ることもあるが,通常分娩後40日-100日目に現われるものは大部分であって,平均は75日である。そして発情の反復は,21日前後が普通である。
 分娩後の初回発情は,泌乳能力の大なるものは比較的遅く現われる傾向がある。或いは又栄養不良や疾病に侵されたもの,更に最近の研究によれば,燐やビタミンの不足,殊にCの不足によって発情の現われぬことが実験されている。
 普通の乳牛は,分娩後75-110日後に種付けをするものである。85日目に種付をすれば,丁度12ヵ月毎に1産をあげることとなる。種付を分娩後75日よりも早くすると,著しく泌乳量を減少するものであるが,妊娠による泌乳量の影響は,妊娠5ヵ月から現われるものであるから,1ヵ年検定の場合は,その検定の終る時が妊娠5ヵ月であるようにすればよい。米国での実験の結果によれば,分娩後30日目に受胎さすと,75日目に受胎したものに比較して,その牛乳生産量は,2産目の時は18.4%,老牛になると21.3%も減少したことを報じている。一般に交配は初回の初情で受胎するものであるが,その成績は大体43%位で,2回の交配によって受胎するものは31%,3回の交配によって受胎するものは31%,4回の交配によるものは,25%と次第に減少する。又受胎に要する平均交配回数は2.6回位である。それで希望する時に分娩せしめるためには,この点注意が肝要である。
 なお一番不安なことは不妊の現象である。米国のミネソタの農業試験場での調査によれば29年間において,各乳牛の年令別による不妊率は,次表に示す通りである。
| 年 令 (才) | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 
| 不妊率 (%) | 7.4 | 3.6 | 2.8 | 6.3 | 5.7 | 4.3 | 3.6 | 7.8 | 5.0 | 11.7 | 12.0 | 21.0 | 17.0 | 33.3 | 20.0 | 50.0 | 
即ち最も受胎し易い年令は10才迄のものであって,これから老令になるにつれて,不妊率が増加することがわかる。この原因は単に年令のみといわれぬので,栄養状態或は特に燐欠乏症,ビタミンEの不足,の他流産,後産停滞等が主な原因であるから,これ等の点を管理の上に,充分注意しなければならない。