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自給飼料を主体とした乳牛の飼養(2)
畜産専門技術員 岡 秀
三.自給飼料による泌乳牛の飼養
最近のように,乳価が下落したにも拘らず飼料高の時には,高価な濃厚飼料を多く喰べさせては採算がとれないから,乳量は低下しても粗飼料を主体とした方が,経済的にも牛の健康増進にも有利であることは前号で述べた通りである。
つぎに,泌乳牛に対する畜試の試験成績を紹介する。
A 成牝牛に対して青刈牧草を主体とした場合
オーチャードグラスを主として,これに2-3割のレッド・クローバーを混入した青刈牧草を主飼料とした場合と,これに蛋白質補助飼料(大豆粕60,魚粉40)を添加した場合の成牝牛の健康状態,乳量,乳質について調査したものである。
1 試験成績
供試牛は,分娩後5-6ヵ月たった体重550㎏前後の泌乳最盛期を過ぎて1日乳量15-20㎏の栄養,体格の比較的整った6頭のホルスタイン種で,全期間33日間を第四表のような3期に分けて試験している。
青刈牧草は飽食程度摂取させ,その他に1日1頭当り野乾草5㎏,鉱物質(炭酸石灰50,食塩50)0.5㎏与えたのである。
試験期間中の牛乳組成分は,各試験期間の終2日間に供試乳を採取して混合試料として,常法に従って分析している。
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備 考 試験前期及び同後期の各前4日間は予備期である |
(1)青刈牧草採食量,体重並びに乳量青刈牧草を主体とした場合の採食量,体重乳量を一括表示すると,第五表の通りである。
表に示すように,青刈牧草を主飼料として1日乳量15-20㎏の栄養良好な乳牛を飼養した場合,試験開始後2日目頃から徐々に乳量は減少を続けて,前期1日平均乳量は第1区,第2区を通じて対照期(畜試通常飼養)の64-81%各区の平均は1区は11.9㎏(6升4合)で対照の74.4%,2区は14.0㎏(7升6合)で71.4%に減少した。そして,後期になると前期と同様に濃厚飼料無給与の飼養を続けた第1区は依然として乳量が減少して対照期の52-65%,平均9.3kg(5.0升)で58.1%となり,また濃厚飼料として蛋白質補助飼料を1日1頭当り1㎏添加した第2区も乳量は減少して,対照期の55-67%,平均12.1㎏(6升5合)で61.7%に減少したが,前期末を基準としての減少を計算すると第1区は78%,第2区は86%の減少であって両区間に8%の差を生じたわけである。
区 別 | 牝牛 番号 |
採 食 量 | 体 重 | 乳 量(1日平均) | |||||
(1日平均) | |||||||||
前期 | 後期 | 対照期末 | 前 期 末 | 後 期 末 | 対 照 期 | 前 期 | 後 期 | ||
1 区 | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | |
1 | 31 | 28 | 566 | 544 | 549 | 14 | 12 | 9 | |
(100) | (96) | (97) | (100) | (81) | (65) | ||||
2 | 31 | 29 | 617 | 601 | 610 | 18 | 12 | 9 | |
(100) | (97) | (99) | (100) | (69) | (52) | ||||
平 均 | 31 | 29 | 592 | 572 | 580 | 16 | 12 | 9 | |
(100) | (97) | (98) | (100) | (74) | (58) | ||||
(100) | (78) | ||||||||
2 区 | 3 | 32 | 30 | 531 | 502 | 517 | 19 | 12 | 10 |
(100) | (95) | (97) | (100) | (64) | (55) | ||||
4 | 31 | 30 | 564 | 556 | 547 | 20 | 15 | 13 | |
(100) | (99) | (97) | (100) | (76) | (67) | ||||
5 | 31 | 29 | 530 | 529 | 532 | 22 | 16 | 14 | |
(100) | (100) | (100) | (100) | (76) | (64) | ||||
6 | 31 | 29 | 510 | 495 | 508 | 19 | 13 | 11 | |
(100) | (97) | (99) | (100) | (68) | (60) | ||||
平 均 | 31 | 30 | 534 | 521 | 526 | 20 | 14 | 12 | |
(100) | (98) | (99) | (100) | (71) | (62) | ||||
(100) | (86) | ||||||||
備 考 ( )内は指数を示す。 |
(2)牛乳各組成分の含有率
試験期間中の牛乳組成分は,第六表に示す通りであって,乳質には著しい変化を認めないが,濃厚飼料無給与期においては対照期及び蛋白質補助飼料添加期に比べて固形物が幾分減少した他に,特に蛋白質の中,カゼインが相当減少の傾向を示している。
水 分 | 全固形物 | 脂 肪 | 蛋白質 | カゼイン | 乳 糖 | 灰 分 | |
対照期 | 88.9 | 11.1 | 3.4 | 2.68 | 1.97 | 4.3 | 0.72 |
濃厚飼料無給与期 | 89.03 | 10.97 | 3.3 | 2.66 | 1.2 | 4.3 | 0.71 |
蛋白質補助飼料添加期 | 88.96 | 11.04 | 3.3 | 2.68 | 1.96 | 4.27 | 0.79 |
2 考察
自給飼料等特にオーチャードグラスを主体とした青刈牧草を泌乳牛に与えた成績は前記の通りであるが,これについて若干考察を試みたい。
(1)採食量について検討を試みると第七表の通りであるが,濃厚飼料無給与期のみについて論ずると,体重に対する採食乾物量は1.76%-2.02%である。乳牛の可食量は普通,乾物量で3.0%であるから,本成績の採食乾物量は可食乾物量の58-67%に当り,やや少ないように推察される。しかし,N・R・C飼養標準の維持に要する乾物量を各期について算出して,これを採食乾物量より差引くと,乾物量で2.37-2.80㎏程度が牛乳生産に向けられたことになる。
(2)体重は青刈牧草のみで通常飼養の概ね97%程度を維持しているが,乳量について検討を加えると,乳量は対照の60-70%程度に減少しており,そして濃厚飼料を少し添加しても乳量は増加していない。しかし,その減り方は前期末を基準として1区(濃無)は78%,2区(濃1㎏添加)は86%の減少であって,濃厚飼料を加えた方が幾らか少くなっている。
すなわち,相当優良な青刈牧草であると,これのみを主飼料として泌乳最盛期を過ぎて1日乳量15-20㎏の泌乳牛において,9-14㎏(約5.0-7.5升)程度の乳量は望めるが,粗飼料だけでは第八表に示すよう計算上も栄養分が不足するから,それ以上の乳量を望むにはそれ相当の濃厚飼料を補給してやる必要がある。
体重 | 採食乾物量 (A) |
採食乾物量/体重 | 採食乾物量/可食乾物量 | N・R・C標準の維持 に要する乾物量(B) |
生産用乾物量 (A-B) |
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㎏ | ㎏ | % | % | ㎏ | ㎏ | ||
1区 | 前期 | 582.1 | 10.59 | 1.82 | 60.7 | 7.92 | 2.67 |
(濃無) | |||||||
後期 | 576.1 | 10.15 | 1.76 | 58.7 | 7.88 | 2.27 | |
(濃無) | |||||||
2区 | 前期 | 527.2 | 10.63 | 2.02 | 67.3 | 7.43 | 2.8 |
(濃無) | |||||||
後期 | 523.3 | 11.21 | 2.14 | 71.3 | 7.38 | 3.83 | |
(濃1㎏) | |||||||
備考 | 1.体重は前の期末と該る期末の平均である。 | ||||||
2.採食乾物量は1日量である。 | |||||||
3.可食乾物量は体重の3.0%とす。 |
体重 | 乳量 | 飼料中の栄養分 供給量(A) |
N・R・C標準による 栄養分要求量(B) |
栄養分の過不足 (A-B) |
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㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | |||
1区 | 前期 | D・C・P | 582.1 | 11.9 | 0.64 | 0.85 | (-) 0.21 |
(濃無) | T・D・N | 5.62 | 7.95 | (-) 2.33 | |||
後期 | D・C・P | 576.1 | 9.3 | 0.61 | 0.73 | (-) 0.12 | |
(濃無) | T・D・N | 5.37 | 7.14 | (-) 1.77 | |||
2区 | 前期 | D・C・P | 527.2 | 14 | 0.65 | 0.91 | (-) 0.26 |
(濃無) | T・D・N | 5.64 | 8.25 | (-) 2.61 | |||
後期 | D・C・P | 523.3 | 12.1 | 1.08 | 0.83 | (+) 0.25 | |
(濃1㎏) | T・D・N | 6.17 | 7.65 | (-) 1.48 | |||
備考 | 1. 青刈牧草はオーチャード75対レッドクローバー25の比率とす。 | ||||||
2. 乳脂率は3.5%とした。 |
(3)従来より放牧とか,青刈飼料のみで乳牛を飼育するときは,泌乳量は乾燥飼料だけで飼育するときよりも多くなるが,その反面に脂肪率の低下することが一般に知られている。本試験成績においてもこの点が注意されるところであるが,脂肪率は対照期3.4%,青刈牧草期3.3%で殆んど差は認められない。これよりして,青芻給与期の同一期間内では飼養法による脂肪率の差は少いようである。(以下次号)