既刊の紹介酪農経営診断のまとめ平成13年

酪農経営診断のまとめ 平成13年

家族労働力1人当たり所得階層間比較

次に,Wで示したAの式=家族労働力1人当たり労働報酬に着目し,集計対象22事例のデータを,家族労働力1人当たり年間経常所得で,他産業従事者の年間給与額465万円以下を下位層,465万円以上を上位層として組み替え集計した。
それぞれの階層に属する農家戸数は,下位階層が15事例,上位層が7事例である。
労働力1人当たり所得階層間で経営内容を比較したものが表2で,要約すると以下のとおりである。

1.各階層の飼養規模

 各階層の平均経産牛飼養頭数は,下位層37.7頭,上位層57.0頭であった。家族労働力1人当たり年間経常所得は,家族労働力1人当たり経産牛飼養頭数と経産牛1頭当たり経常所得の積で計算される。したがって,省力的な飼養方法を導入している大規模経営において,労働力1人当たりの経産牛飼養頭数が多くなるため,上記のような結果になると考えられる。

2.各階層の経産牛1頭当たり経常所得

 各階層を比較すると,飼養頭数規模だけでなく,個体の収益性も上位層で高く下位層で低くなった。
各階層の経産牛1頭当たり経常所得は,下位層153千円,上位層216千円であった。

3.各階層の経産牛1頭当たり売上高

 経産牛1頭当たり売上高は,下位層741千円,上位層841千円と上位層で高く下位層で低くなっている。このことは,経産牛1頭当たり年間産乳量が,下位層7,960s,上位層8,928sと,下位層で低く上位層で高い結果である。

4.各階層の生産原価

 次に生乳100kg当たりの生産原価を見ると,下位層7,570円,上位層6,386円で,下位層で高く上位層で低くなっている。これには大規模層を中心に省力的管理システムが導入され,労働費が下位層130千円であるのに対し上位層は69千円と大幅に削減されたことが大きいが,やはりここでも分母となる経産牛1頭当たり年間産乳量が,上位層ほど高いことが生産原価の引き下げに貢献しているものと思われる。

5.まとめ

 以上の結果を整理すると,労働力1人当たりの所得が高い経営は,飼養規模が大きく,それを省力的に効率よく管理し,しかも高い技術力に支えられて個体当たりの収益性も高い経営であることが見えてくる。
 上位層の平均経常所得は11,905千円,家族労働力1人当たり経常所得6,660千円で,他産業以上の総所得と労働報酬を実現しており,上記の@式,A式を軽くクリアーしている。
 下位層は酪農部門平均経常所得が5,506千円,農家総所得に対する酪農部門割合が80.8%であるから,農家総所得は6,814千円となり,販売農家の家計費支出額5,500千円はクリアーしているが,家族労働力1人当たり経常所得は2,157千円で,他産業並の労働報酬には及ばない。