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家畜診療所に勤務して23年,県北から県南まで5ヶ所の診療所を経験してきた。どこの診療所においても乳房炎の発生は高率であり,常に病傷事故の上位を占めています。乳房炎は乳質を低下させるだけでなく乳量の低下,治療(抗生物質の使用)による乳の廃棄,治療費の経済的損失,更には廃用による個体そのものの損失など酪農家を悩ます病気です。乳房炎による体細胞数と乳量損失率には表のような関係があることがみとめられています。
| 体細胞数(万) | −20 | −30 | −50 | −100 | −150 | −200 | 
| 乳量損失率(%) | 0 | 2 | 4 | 8 | 15 | 20 | 
 例えば30頭で1頭平均25s搾乳農家(1日乳量750s)で,体細胞数が50万以上だと毎日60sの損失です。乳価を90円/s とすると毎日5400円,1ヶ月だと162000円の損失です。これに体細胞ペナルテイーが加わりますから毎月20数万円の損失となります。
 逆に見れば体細胞数を20万以下にすれば20数万円の収入増となるわけです。
 乳房炎は,病原菌の感染が原因ですが,生体・環境等の様々な条件が複雑に組み合わされて引き起こされます。完全な予防法はありませんが,病原菌の進入を阻止する正しい搾乳を行う必要があります。
 現在,家畜診療所ではおかやま酪農業協同組合が事業主体で行っている乳質向上対策事業の取り組みのうち搾乳立会に家畜保健衛生所など関係機関と参加しています。これはバルク乳での体細胞数20万以下で,かつ体細胞数20万以上の個体数を牛群の2割以下を目標に,酪農家が作業を開始する時間にあわせて牛舎に入り,作業内容,搾乳方法,牛の行動等を調査し問題点の発見と,解決策について検討するものです。今回の搾乳立会でもいくつかの間違った搾乳が見られました。特に問題となる点を以下述べてみたいと思います。
前搾りの目的は,@乳頭を刺激してオキシトシンの分泌を促す。A乳頭先端部にたまっている細菌数や体細胞の多い乳を排除する。B異常乳の早期発見(重要)C乳の通りをよくするなどです。前搾りは乳頭清拭の前に実施し必ずストリップカップを使用し異常乳の有無を確認し異常が疑われたらPLテスター等の試験をしましょう。前搾りの乳は牛床に捨てないようにしましょう。牛床が細菌に汚染されてしまいます。
病原菌は手やふき布・ミルカーなどで伝染します。1頭に2枚以上用意し絶対に1枚で済ませてはいけません。消毒液で乳頭を拭き乾いた布で水気を取ります。濡れたままだとライナースリップを起こしやすくなります。清拭は乳頭だけにします。
前搾りから1分後に装着しましょう。装着時にエアーを吸入しないよう注意しましょう。適正な陰圧が保てなくなりミルカーが脱落したり乳の逆流現象を起こし乳頭口を痛め乳房炎の原因となります。
大部分の牛は3〜4分最大でも5分以内に済ませましょう。必要以上に搾乳しても総乳量や乳成分には大差はありません。過搾乳はかえって乳頭を傷める原因となります。後搾りは必要ありません。乳房炎になるとか乳量・乳質に影響はありません。
 デッピングは搾乳後直ぐにしましょう。時間が経つと乳頭内に細菌が吸い込まれます。乳頭が乾くまで15分以上牛を起立させておきましょう。
 以上の事は過去何度となく言われてきたことで目新しい事は何もありませんが,今回の搾乳立会でも間違った搾乳方法が見られました。お金のかかることではありません。今晩にでも,時計を片手に,ご夫婦で搾乳方法を見直してみてください。